まだ青い彼

「やだ、でも、あなたは若いから、相手が誰でもこうなるんじゃ」
「ぶふ、やば。虫でも相手選ぶっつの。人間扱いされてなくてウケる」
「ご、ごめん、そういうつもりじゃ、でも……」
「俺だってね、緊張してんですから。年上のお姉さん相手にするわけだろ? 取柄、若さだけとか思われたらやじゃん」
「それなら私だって、年上だからってそっちの期待されたら困る」
「はは。自分の彼女、経験豊富じゃない方が嬉しいにきまってんでしょ」
「そ、そうか、そう……」
「ん、早くシャワー行っといで。初めての夜じゃん。純粋にドキドキして過ごしたらよくね? 」

 軽い言い方だけど、正論で私の心も軽くなった。
 罪悪感より、今のドキドキを大切にしていいんだろうか。男性と初めて過ごす夜。
 ……若干流されている気はするけど。

 熱いシャワーで洗い流したメイクをしてない素顔が、曇った鏡に映っていた。これで冷めてくれるなら、それもまたいいのかもしれない。イマイチなスタイルは年のせいじゃなくて元々だ。

 ふう、と息を吐く。
 別にいいじゃないの、誰にも迷惑はかけていない。髪を乾かすドライヤーの風が顔に当たっても熱く感じない。


 ドク、ドク、鼓動が早くなる。勇気を出してドアを開けると……。

「え? 」

 寝てる。寝てる?
 うつ伏せで手がベッドから垂れ下がっている。

 近づいてみるが、心地よさそうな寝息と、規則正しく上下する背中と、ほんの少し開いた唇。
 信じられない。この数分で眠るなんて!

 おかしくなって吹き出した。ふ、何よもう。私の覚悟とドキドキを返してよ。綺麗な鼻先を弾いてみたけど起きる気配はなかった。

 拍子抜け。
 残念な気持ちとホッとする気持ちが共存している。もう後戻りできないという覚悟が緩む。まだ、今なら引き返せる。既成事実で後戻りできないようにされたかった気持ちもあって、複雑だ。自分の意思以外の何かに決めて欲しい、そんな委ねたい気持ち――。