まだ青い彼

「あとつけたとでも思った? 」
「……そん、な。こと」
 思った、けど……。口ごもると彼はははっと笑った。
「顔に出るなー。でも、付き合ってるなら知っててもおかしくない情報じゃない? 春美ちゃんだってさ、俺が学生じゃなくて同い年くらいで付き合い始めたら俺の職場がどこかくらい聞くだろう」
「うん……」

 警戒しちゃって申し訳なかったなと思い、彼の顔を窺うと眉を下げて力なく微笑んだ。罪悪感で胸がぎゅっとなる。

「金曜、会社の飲み会あるって言ってたな。どこであるの」
「そりゃあ会社の近くだと思うよ」
「おっけ。じゃあ、迎えに行くから終わったら連絡ちょうだい。カフェででも時間潰してるから俺のことは気にしないで楽しんで」
「え、遅くなるよ。そんな遅くから会うの? 」
「土日休みでしょ」
「そうだけど」
「うん。じゃ、お泊りしよ」

 え?お泊り……?
 言われた言葉を認識しているうちに電車は最寄駅のホームに滑り込んだ。

「それじゃあ、金曜日。楽しみにしてる」
 顔寄せてそう言うと、彼は降りる人の流れに私を乗せた。

 押す時に触れた彼の手が妙に暖かくて心地よかったのを覚えてる。それから、近づいた時にふわりと爽やかな香りがした。


 言えばよかったのに、すぐに無理だって。あとでメッセージを送ったっていい。
 ただ、呆然と胸が高鳴ったことに自分で驚いていた。

 男の人がプライベートゾーンに入ってくるの久しぶりで……何て言うか、免疫が切れている。恋愛経験のない女の子じゃあるまいし、自分がちょろくて嫌になる。

 動揺、してる場合じゃないのよ。きゅっと唇を噛み背中に残る熱と鼻腔を抜けて脳が記憶した彼の香りに囚われないよう気を引き締めた。