まだ青い彼

「あー……違う、違う。言い方悪かったな。結婚してる。ってか、過去にしたことがあるってこと。今は独身。彼女もいない」
「へぇ」
「うん。結婚歴があるってこと。それでもいい? ってこと」
「ああ、そっか。じゃあ、別に……恋愛するのは自由」
 だから、いいんだけど、私バツイチの人とか考えたことなかった。いいとか、悪いとか。
 
「うん、そうだね」
「えっと……」
「じゃあ、付き合う? スマホ出して」

 彼に言われるまま出し、手際よくメッセージアプリで友達追加すると『七瀬広睦』と送って来た。
「それね、俺の名前。『ななせひろむ』あ、電車もう来るな。もうちょい話したいけど、今日の講義はサボれないし、そっちも仕事だよね? 」
「え、はい。講義って、何の仕事を……」

 塾の先生とか?でも塾ってこんな朝早い?高校生とかは学校だよね。予備校とか……?

「仕事? バイトは塾講とカテキョーと何かタイミ―とか単発で入れたりしてる。今暇だから」
「……バイト」

 え、正社員じゃなく、定職に就いていないってこと?スッと心に冷静さがやってくる。大人としてはシビアな部分だ。ましてや私は結婚したいというのに……。

「そ、バイト。もう単位もあと卒論と今からの講義だけで就職も決まってるから暇なんだ」
「単位、就職……え、いくつ、なの? 」
「21。今大学4年生」

 ヒッと口を押えた。嘘でしょう、まさか学生だなんて。上から下まで不躾に見てしまう。確かに、スーツ……。これ、スーツじゃない?セットアップ……。
 無理……だ。

「ごめんっ!学生だと思わなくて、やっぱり……」
 取り消し、取り消し、さすがに学生は無理!!

 「あ、電車来た。今日、仕事後会える? まさか、自分から始めといて逃げないよね、春美ちゃん? 」

 彼は有無を言わせない笑顔でそう言うと電車に乗り込む、閉まったドアの窓越し指でスマホを見ろ、と指示する。

 画面には
『これからよろしく』
 とあった。それから、ハートマーク一つが別に送られてきた。

 ――早まった……。
 私はただ、頭を抱えた。