まだ青い彼

「あの、初めまして。私、東谷春美といいます。突然、ごめんなさい。えっと、私と付き合って下さい。好きなんで」
 心の中で何回も成功した告白は本人を目の前にしたら散々でみっともない物になった。羞恥心が血流に乗ってかぁっとせり上がってきて次の言葉はでない。相手に頼るほかなくて、数秒の沈黙が随分長く感じた。お願い、何か言って。祈るような気持ちでいた。情けない。私、30過ぎてこんな告白しか出来ないの。

「え、好き? 」
 そう聞き返されてハッとする。
 そうだ、相手のことよく知らないのに『好き』は早すぎた。怖いよね!?サーっと血の気が引く。

「いいえ、そうではなく、よく電車でお見かけしたので気になっていて、連絡先ききたいなって思って、まだ好き……」
 まではいってないと私も思うのに、どうして好きって言っちゃったんだろう。
 
 相手はそう驚いた感じでもなく、うーんと言った。どっと汗が吹き出す。
「いいよ。付き合っても。でも、俺結婚してるんだよね。それでもいい? 」

 え、結婚……。してる?今度は目の前が真っ暗になった。結婚してるかもしれないって想定してたのに。
 は、と息を吐く。目の前が真っ黒になったのに、さらに頭が真っ白になって、状況がわからない。振られた……んだよね?結婚、してる。って……。いえ、待って、その前。ようやく彼の発した言葉を脳が拾う事が出来た。
「いいよ、って言った? 」
「うん。いいよ、付き合おう。あ、違うね。俺が言うんじゃないよね。えっと、君が、あー、君、名前なんだった? 」
「東谷春美、ですけど……」
「うん。決めてよ、春美ちゃん。それでもいい? 」
 また名前を呼ばれたこととか、私に正面から向けられた視線だとか、動揺はするけど、残念に思う気持ちに言わなくちゃと思う。結婚してることだけでも受け入れられないくらいショックなのに。
「け、結婚してるのに。奥さんがいるのに彼女作るのって駄目だよ。浮気だよ、それ。そんな軽く不倫をしたら駄目だし、私も不倫は絶対に無理です」

 ずっと気になってた人があっさり不倫する人だったことがショックだった。