まだ青い彼

 ――その後、()とは毎日同じ電車に乗るわけではなかった。

 週に2回か3回電車の中で見かける。会えた日は嬉しくて顔が緩んでしまう。
 彼を探し、気づけば目で追ってしまう。彼はいつもドア付近に立って外の景色を見ている。時々スマホの画面を確認してまたすぐにスマホをしまう。

 ああー……かっこいいな。

 『目の保養』なんて、自分に言い聞かせているだけで、あわよくばの気持ちは日に日に大きくなっていった。
 もう一度、あの日みたいに彼と話せたらな。そう思うようになった。

 ちらちら見ても、見つめても彼と目が合うことも無かった。……完全に赤の他人だ。彼の目に映ることが出来たらな……。


 以前は、朝に彼を電車で見かけると、ラッキーくらいの気持ちで電車を降りると忘れてしまっていた。今は日に日に彼を思い出す時間が長くなっていた。
 夜寝る前に、明日も会えるかな、そう思って眠りについた時は認めるしかなかった。このままじゃ嫌だ。このまま彼に存在を知られずに終わりたくない。

 気持ちが目の保養からはみ出て、好意に変わっていることを――。

 声、かけてみようかな。でも、気持ち悪いよね。いい年してそんなことすべきじゃないのかな。悲観的な思考が頭の中をぐるぐると回る。あんなにかっこいいんだから恋人がいないわけないじゃない。恋人どころか結婚してるかもしれない。子供もいるかも。

 それならそれで、すっぱり諦めたらいいじゃない。
 そうだよ、今まで私はいつもタイミングを逃して来たんだから、今度は自分から積極的に行ったっていいじゃないの。

 まだ始まってない恋に決着をつけても生活が変わるわけでもないし、むしろ決着を付けた方が心置きなく次に行ける。ただ電車で見かけるだけの彼はいつ会えなくなるかわからない。電車で会った時に声をかけなければもう一生偶然なんて起こらないかもしれないのだから。