まだ青い彼

 ――靴擦れの足を引きずりながら駅へと向かう。

 改札を通ろうとICの入ったスマホを出そうとするが、あるべきところに無く、後ろの人を待たせて眉間に皺を寄せられてしまった。
「すみません」
 と呟いて人の流れを邪魔しないように脇へずれてスマホを探すが見つからなかった。
 どうしたっけ、さっき、沙耶と話して……。そうだ、バッグに入れずに雑貨屋さんで買い物したエコバッグにボソッと入れた。エコバッグ、エコ……。サーッと血の気が引く。手にエコバッグを持っていなかった。

 ……ベンチ。きっとベンチに置きっぱなしにしたんだ。
 ダメだ気もそぞろにぼーっとしてるからこんなことになるんだ。買い替えたばかりの最新機種のスマホ。本体も心配だし、ICも入ってるし、悪用されないか、大丈夫かな。ベンチにもなかったらどうしよう。不安で痛む足も忘れて走っていた。

 ――ベンチには誰かが座っていて、一人分のスペースを開けて私のエコバッグが見えた。ほっと胸を撫でおろす。肩を上下させながらそのエコバッグに手を伸ばすと、横にいた人がサッと私のバッグを手で押さえた。

 驚いて顔を上げる。私はここで初めてその人が男性だってことに気が付いた。

「あの……」
 怖くなって恐る恐る声をかける。

「これ、本当に君のバッグ? 」
「あ、はい。私のです。忘れちゃって今慌てて戻って……」
 その人は、んー? と怪訝な顔で私を見つめた。探るような目を向けられては、返してもらえないと困るとあせってくる。

「本当です! 中には買ったばかりのスマホ、機種は○○で、雑貨屋さんで買ったフレンチブルのコンパクトミラーが入ってて。あ! ICも入ってます。名前は東谷晴美。ハルミトウヤ! って記載されてます! 」

 その人は目を丸くした後、くすりと笑うと私のエコバッグを持って立ち上がり、私にバッグを手渡した。

「気をつけてね……高い機種だし。あと、見知らぬ男に個人情報漏らすのもどうかと思うよ。ふ、じゃあね()()()()()()

 彼は去り際振り返って笑った。街頭で顔が照らされ、初めてその人の顔を見ることが出来た。