まだ青い彼

「はは。眞鍋くん逃げちゃった」

 電話口には再び沙耶が戻って来た。酔ってるのか、いつもより遠慮がない。

「え、ねぇ。さっきの話だけど……」
「うん。眞鍋くんが、やたら春美が来ないこと残念がってたからさ、もしかしてーって問いつめたら白状した。今日も春美に会えたらなって思いながら来たらしいよ! 」
「そうなの!? 私も……」

 行けばよかった!そう言おうとした時だった。

「まぁ、今は二児のパパだって。どっちも女の子で写真見せてもらったけど可愛かったよ。奥さんもきれいな人だった。同窓会の最中もさ、ね、ずっと奥さんのこと気にしてたよ。一人で大丈夫かなぁって。下の子がまだ小さいみたい」
「あ、そう。そうなんだ」

 良かった。私も会いたかった!なんて感情のまま言ったりしなくて。恥をかくところだった。
 
「うん。ただ懐かしいねーって。残念だったね、春美」
「え、わ、私は別に」
「あの頃、告白しとけばよかったね」

 な、なんだ。あの頃の話か。今、期待したでしょって意味かと思った。

「そう、かな。でも、あの頃はあれでよかったんだよ。でないと受験失敗してたかもしれないし」

 両思いだってわかってたら居ても立っても居られなくて、勉強どころじゃなかっただろうなと思う。じゃあ、今の会社に入社出来なかったかもしれないしこのキャリアはなかったかもしれない。……なんて、これでよかったって思わないとやってられない。だって、もうあの頃には戻れないのだから。
 キャリアではない何かを手に入れていたかもしれない。私にも可愛い娘が……。やめよう、不毛だ。
 
 淡い恋の思い出が好印象として残ってるだけ。なんて日なんだろう。過去の恋ばかりにスポットライトが当たるなんて。

 どこへ持って行っていいかわからない気持ちをぎゅっと両手で握りしめた。