わすれもの

 教員になって、4年生担任を全うしたのはつい最近だ。
 1年から6年まで、最後に担任したのは4年生。
 そんなものだと、何も考えてこなかったけど、何だか不思議だなって思う。

 4年生の社会科の教科書は、日本各地に内容が飛ぶ。
 10歳程度の子供には、身近な話題でなく、具体的ではないのでピンとこないだろう。
 なので、東京都の小学4年生の社会科は、「わたしたちの東京都」ってものを使うんだ。
 自分は、ぱらぱらとめくって、胸が締め付けられた。
 だって、府中市のお祭りを扱って、大國魂神社が出るんだよ?

 彼女と喫茶店を出た。
 店で話した内容は覚えていないが、店を出るころには彼女を名前で呼んでいた。
 彼女は、僕をちゃん付けで呼んだ。
 くすぐったくて恥ずかしいけれど、嫌じゃなかった。
 おごってもらったお礼をした。
 どんな流れだったか覚えていないけど、その足で大國魂神社へ行った。
 神社に入り、右目に見えた、たこ焼き屋は――今ではもうなくなってる。

 なんとなく、そのまま別れるのは嫌だった。
 あの当時の自分は、女の人を誘ったり提案できなかっただろう。
 彼女が僕を連れまわしてくれたんだろうな。
 中学生活と大学生活の話をしたっけ。
 空は明るかったけど、夕方だったので、僕は改めて喫茶店のお礼をして帰ろうとした。
 しかし、彼女は
「年頃の男の子を腹ペコで帰すわけにはいかないじゃん」
 と言ってくれた。

 今ではもうない、喫茶店のあった雑多なエリアの洋食屋へ連れて行ってくれた。
 やっぱり、こんな店にすっと入っていける彼女は大人だな、大学生はこんな店を普通に使えるのかな、と思うと、自分がやけに幼く感じた。
 いつか自分も、気軽にこういった店に入れるようになりたい、だけどそんな大人になれるのかな、と揺れた気がする。