……やっぱり目立つ場所だよね。
どこを見ても、カップル、カップル、カップル……だった。
夏樹は知り合いに会わないかと、気が気ではなかった。
この状況で職場の誰かに会ったとしたら、誤解されるのは目に見えている。回避するために日向にも場所の変更を提案をしてみたのだが、「?」という顔をされてしまい、意識しているこっちの方が居た堪れないような気持ちになった。
――「結城さん、おまたせ」
夏樹は声の方を振り返った。
「!」
ハード系のワックスでひたいを出している日向を見るのは初めてだった。
ラフな服装なのにカジュアルに寄りすぎていないからか、大人っぽい。
「日向君って休日、こんな感じなのね」
意外だったこともあり、感じたままを口に出していた。
前髪がないせいか、見下ろしてくる視線にも妙に色気がある。
「ちょっとチャラかったかな?」
日向が気にしているのは首元のネックレスだった。
「いや、そんなことはないよっ、似合ってるよ」
夏樹は慌てて視線を外した。
まじまじと見てしまって気まずくなった。
「結城さんは、かわいい。――――服」
「あっ、ありがとう」
夏樹は自分のワンピースに視線を落とす。
クローゼットの前で悩んだ末、今日の趣旨を考えてフェミニンなシルエットを選んできた。
「サーモンピンク……想像してなか……」
「ん? なに?」
日向が唇の中でもごもご言っている。周りの喧騒に混じって聞き取れなかった。
「――なんでもない。結城さんは普段大人っぽい服装が多いから、驚いたって、言ったんだ」
「そうだね。仕事に行く時は、それなりに落ち着いた色を選んでるから」
今の課は市民の対応もするため、出社後は制服に着替える。ただ、『情報管理課』の頃はオフィスカジュアルで良かったため、落ち着いた服を着るのが習慣になっていた。
「襟元のレースとかも、新鮮だよ」
日向は顎先に手を当てて、夏樹の装いをじいっと、凝視している。
「……」
……すごく観察してくるな。
日向の視線を解くように、夏樹は「行こう!」と強めに声を張った。
歩き始めてほどなく、日向が「そうだ!」と小さく言った。
夏樹が見上げると、申し訳なさそうな声が降ってきた。
「従姉妹に会う前に、念のため、俺たちの呼び方を変えた方がいいと思うんだ」
「ああ!」
日向に言われて、頷いた。
もちろん、大事なことだ。
「確かに、恋人なのに苗字呼びは不自然だね」
「うん、うん」
日向がほっとしたような顔をした。
なんとなく、お互いに街路樹の横で足を止めていた。
通行人の邪魔にならないよう、どちらともなくガードレール側へと寄った。
「えっと――」
夏樹は視線を地面に落とした。
日向の下の名前は……。
「宗一郎」
「あっ、うん。もちろん知ってるよ」
慌てて取り繕った。なんとか一郎……だったことは覚えていてたが、宗一郎だったか。
自転車に乗ったままの通行人が近づいてきて、日向の腕に庇われた。
ありがとう、と顔を上げると近い距離に日向の顔があった。
「夏樹」
低い声で囁かれ、抗えずどきっとした。
「……っ」
夏樹は手で顔をあおいだ。
「……ごめん、なんか照れるね」
正直に告げた。
同期に名前を呼び捨てにされる機会なんて、そうそうない。
「夏樹――も、呼んでみて」
日向が窺うように見てきた。
「あ、うん」
改まって待たれるとさすがに緊張する。一度ぎゅっと目を閉じてから、思い切って言った。
「――宗一郎……」
「……うわ」
日向が唇の中で小さく言った。と同時に、急に片手で顔を隠した。
くるっと背中を向けてしまった。
「いや、ほんとだね、照れるね」
「で、でしょう!」
夏樹は力んだ。
照れるのは不可抗力だ。
「……い、行こうか」
「う、ん」
日向が歩き出し、夏樹も後に続いた。
ちら、と日向を見上げる。耳が、赤くなっていた。
