——ああ、間に合わなかった。
薄れゆく意識…。
病室の白い天井を見つめながら、わたしはぽつりと心の中でつぶやいた。
わたしが思い描いていた十四歳の女子中学生は、思いっきり学校生活を楽しんだり、友達と遊んではしゃいだり。
それに、好きな人に恋したりもしたのかな。
でも、ずっとわたしは病院のベッドの上で生活している。
中学入学直前に見つかった、大きな病気のせいで。
入院する前は、道場をやっている両親のもとで、毎日のように武道の稽古をしていた。
元気で体が丈夫なことがわたしの取り柄だった。
だけど、今は外にも出られず、苦痛な闘病生活を送っている。
そんな中、唯一の楽しみはスマホでする乙女ゲーム。
ハマったのは『プリンセス・アカデミー』、――略して『プリアカ』というゲーム。
主人公兼ヒロインキャラ・マリアになりかわって、学院のイケメン王子たちと恋をする逆ハーストーリーだ。
しかも、主人公のマリアがとにかくかわいい。
容姿はもちろん、仕草も言葉づかいも。
女の子のあこがれをぎゅっと詰め込んだキャラだ。
生まれ変わったら、わたしもこんな女の子になりたい。
きっかけは、広告で見かけて、なんとなくダウンロードしてみた体験版。
こういうゲームは初めてだったけど、やってみたらすぐに夢中になってしまった。
体験版でこんなにおもしろいんだから、完全版はもう期待しかない!
だから、完全版が配信されるまでは絶対に死ねない!
と思っていたら、不思議なことに検査の数値もよくなった。
プリアカをプレイするのがわたしの生きる希望になっていた。
それなのに――。
完全版の配信日前日。
願いもむなしく、容体が急変したわたしの命は風前の灯火だった。
家族がすすり泣く声がかすかに聞こえ、病室内は悲しみに浸っている。
そんな中、わたしはひとり、怒りを爆発させていた。
神様も意地悪じゃない?
明日配信だって、わたし言ってたよね?
それなのに、なんで今日?
絶対に許さない。
一生恨んでやるー…!
そうして、わたしは静かに息を引き取った。
「…ん?」
次に目を開けたとき、見慣れない風景が飛び込んできた。
金色のきらびやかな装飾がほどこされた、深紅の天井。
部屋の中央には、吊り下げられた大きなシャンデリア。
明らかに、病室の白い天井ではない。
「…ここ、どこ?」
どうやら、わたしはベッドの上にいるようだ。
起き上がろうとすると、柔らかいマットレスに手が沈んで驚いた。
病院のベッドはこんなに柔らかくない。
それに、枕元にはフリフリでかわいいクッションたちが並んでいる。
きょとんとして固まっていると、開いている窓から心地いい風が流れ込んできた。
それに導かれるようにして、わたしは窓辺へと向かう。
そこに立った瞬間、思わず口がぽかんと開いた。
「わたし…、知ってる…!」
下に見えるのは、涼しげな噴水や手入れされたバラ園が自慢の庭。
その庭を囲む高い塀の向こう側には、中世ヨーロッパ風の家々が並んでいる。
この景色、何度も見たから覚えている。
病室のベッドの上で眺めていた、スマホのゲーム画面で。
そう、ここは――。
わたしがハマったゲーム『プリアカ』の世界だ!
そして、わたしが今いる大豪邸は、ゲームの主人公マリア・フォン・アルベールが暮らす屋敷。
もしかして、わたし…。
あこがれのプリアカの世界に転生しちゃった!?
どうしよう、どうしよう、どうしよう…!
…いや、“どうしよう”じゃないよね?
これって――、最っっ高じゃん!
完全版ができなかったから、神様が融通をきかせてくれたとか?
だったら、神様。
あのときは、「一生恨む」とか言ってごめんなさーい。
顔の前で手を合わせて、窓から空に向かって神様にお礼を言った。
そのとき、ふと目の前に垂れてきた金色の髪が視界に入った。
この色の髪は、まさか…!
アルベール家の屋敷にいて、こんなに豪華でかわいい部屋にいる金髪の女の子といったら――。
主人公の…マリア!?
もしかして神様、わたしを大好きなマリアに転生させてくれたの!?
闘病生活をがんばったから、そのご褒美に?
神様、最高ー!粋すぎる!
部屋にあるドレッサーにスキップしながら向かい、鏡の中をのぞき込む。
そこに映っていたのは、腰まである金髪の長い髪の女の子。
マリアと同じロングヘア。
だけど…、なにかが違う。
だってマリアは、金の糸のような美しいストレートヘア。
それなのに、鏡の中のわたしは丁寧に縦ロールされたヘアスタイル。
マリアのクリクリとしたスカイブルーの瞳と違って、猫目のエメラルドグリーンの瞳。
…これは、マリアじゃない。
それどころか、この人物は――。
マリアをいじめる双子の姉、リリアだ…!
リリアは、マリアの恋の邪魔をする悪役。
態度も性格も最悪で、ゲーム内では『悪役令嬢』と呼ばれている。
体験版では、何度リリアの嫌がらせイベントに遭遇したことか…。
だから、すっごく嫌いなキャラ!
それなのに、わたし…そのリリアに転生しちゃったの!?
「うそでしょーーーー!?」
薄れゆく意識…。
病室の白い天井を見つめながら、わたしはぽつりと心の中でつぶやいた。
わたしが思い描いていた十四歳の女子中学生は、思いっきり学校生活を楽しんだり、友達と遊んではしゃいだり。
それに、好きな人に恋したりもしたのかな。
でも、ずっとわたしは病院のベッドの上で生活している。
中学入学直前に見つかった、大きな病気のせいで。
入院する前は、道場をやっている両親のもとで、毎日のように武道の稽古をしていた。
元気で体が丈夫なことがわたしの取り柄だった。
だけど、今は外にも出られず、苦痛な闘病生活を送っている。
そんな中、唯一の楽しみはスマホでする乙女ゲーム。
ハマったのは『プリンセス・アカデミー』、――略して『プリアカ』というゲーム。
主人公兼ヒロインキャラ・マリアになりかわって、学院のイケメン王子たちと恋をする逆ハーストーリーだ。
しかも、主人公のマリアがとにかくかわいい。
容姿はもちろん、仕草も言葉づかいも。
女の子のあこがれをぎゅっと詰め込んだキャラだ。
生まれ変わったら、わたしもこんな女の子になりたい。
きっかけは、広告で見かけて、なんとなくダウンロードしてみた体験版。
こういうゲームは初めてだったけど、やってみたらすぐに夢中になってしまった。
体験版でこんなにおもしろいんだから、完全版はもう期待しかない!
だから、完全版が配信されるまでは絶対に死ねない!
と思っていたら、不思議なことに検査の数値もよくなった。
プリアカをプレイするのがわたしの生きる希望になっていた。
それなのに――。
完全版の配信日前日。
願いもむなしく、容体が急変したわたしの命は風前の灯火だった。
家族がすすり泣く声がかすかに聞こえ、病室内は悲しみに浸っている。
そんな中、わたしはひとり、怒りを爆発させていた。
神様も意地悪じゃない?
明日配信だって、わたし言ってたよね?
それなのに、なんで今日?
絶対に許さない。
一生恨んでやるー…!
そうして、わたしは静かに息を引き取った。
「…ん?」
次に目を開けたとき、見慣れない風景が飛び込んできた。
金色のきらびやかな装飾がほどこされた、深紅の天井。
部屋の中央には、吊り下げられた大きなシャンデリア。
明らかに、病室の白い天井ではない。
「…ここ、どこ?」
どうやら、わたしはベッドの上にいるようだ。
起き上がろうとすると、柔らかいマットレスに手が沈んで驚いた。
病院のベッドはこんなに柔らかくない。
それに、枕元にはフリフリでかわいいクッションたちが並んでいる。
きょとんとして固まっていると、開いている窓から心地いい風が流れ込んできた。
それに導かれるようにして、わたしは窓辺へと向かう。
そこに立った瞬間、思わず口がぽかんと開いた。
「わたし…、知ってる…!」
下に見えるのは、涼しげな噴水や手入れされたバラ園が自慢の庭。
その庭を囲む高い塀の向こう側には、中世ヨーロッパ風の家々が並んでいる。
この景色、何度も見たから覚えている。
病室のベッドの上で眺めていた、スマホのゲーム画面で。
そう、ここは――。
わたしがハマったゲーム『プリアカ』の世界だ!
そして、わたしが今いる大豪邸は、ゲームの主人公マリア・フォン・アルベールが暮らす屋敷。
もしかして、わたし…。
あこがれのプリアカの世界に転生しちゃった!?
どうしよう、どうしよう、どうしよう…!
…いや、“どうしよう”じゃないよね?
これって――、最っっ高じゃん!
完全版ができなかったから、神様が融通をきかせてくれたとか?
だったら、神様。
あのときは、「一生恨む」とか言ってごめんなさーい。
顔の前で手を合わせて、窓から空に向かって神様にお礼を言った。
そのとき、ふと目の前に垂れてきた金色の髪が視界に入った。
この色の髪は、まさか…!
アルベール家の屋敷にいて、こんなに豪華でかわいい部屋にいる金髪の女の子といったら――。
主人公の…マリア!?
もしかして神様、わたしを大好きなマリアに転生させてくれたの!?
闘病生活をがんばったから、そのご褒美に?
神様、最高ー!粋すぎる!
部屋にあるドレッサーにスキップしながら向かい、鏡の中をのぞき込む。
そこに映っていたのは、腰まである金髪の長い髪の女の子。
マリアと同じロングヘア。
だけど…、なにかが違う。
だってマリアは、金の糸のような美しいストレートヘア。
それなのに、鏡の中のわたしは丁寧に縦ロールされたヘアスタイル。
マリアのクリクリとしたスカイブルーの瞳と違って、猫目のエメラルドグリーンの瞳。
…これは、マリアじゃない。
それどころか、この人物は――。
マリアをいじめる双子の姉、リリアだ…!
リリアは、マリアの恋の邪魔をする悪役。
態度も性格も最悪で、ゲーム内では『悪役令嬢』と呼ばれている。
体験版では、何度リリアの嫌がらせイベントに遭遇したことか…。
だから、すっごく嫌いなキャラ!
それなのに、わたし…そのリリアに転生しちゃったの!?
「うそでしょーーーー!?」



