リフォーム営業マンの小さなドキドキ短編集 エピソード3

一年経ったか……

インターホンの前まで来たが、すぐには押せなかった。

時間ぴったりに押す。

これが俺の小さなルールなのに……

一分……いや、三十秒ほどだったろうか。

時間は、もう過ぎていた。

「森下」

表札の脇には、あの日と同じ可愛らしいリース。

変わらないな……

いや。

俺が変わったのかもしれない。

「ヨシ」

小さく息を吐いて、インターホンを押した。

「はーいっ」

……あの日のままだ。

変わらない。

ガチャ。

扉が開き、屈託のない笑顔で迎えてくれた。

「久しぶりっ」

「お久しぶりです」

思わず敬語になってしまう。

「点検って何するの?」

「えっと……」

「とりあえず、お茶しようよ」

変わらない。

いや……

増してるよ。

あの時よりも……

羊革のスリッパが、再び俺をエスコートしてくれた。

「横浜、やっぱ強いねー」

「聞いてたでしょ? ラジオ」

その言葉だけで、あの夏が蘇る。

あの日。

あの時間。

そして……

あの人との距離。

「うん……聞いてたよ」

「十一奪三振。あの横浜の金子君。イケメンだし、あれは絶対プロいくね」

「そうですね」

なんとか言葉を繋ぐ。

「だよねー。ほんとイケメンだしね」

アイスコーヒーを淹れながら、何もなかったかのように話を続ける。

カラン。

「お待たせっ」

グラスの中で氷が鳴った。

久しぶりに、俺に声を掛けてくれたような気がした。

相変わらず可愛いやつだな……

少しだけ冷静になれた。

だって今日は……

あの森下さんの、一年点検なんだから。

……いや。

美香の家の、一年点検なんだ。

あの日から一年。

俺たちは、何もなかったように笑っている。

でも――

本当に、何もなかったんだろうか。

一年という時間は、

あの日を消すには長すぎて、

思い出にするには……

まだ、短すぎた。

――あの日の話は、『見積もりには書けないもの』で。