恋と夢と愛と


二人目の彼氏が出来たのは、高校を卒業して間も無い頃だった。

相手は共演した俳優で、別れた原因は相手の浮気。

売れてない、舞台女優にちょっかいを出しやがった。

浮気が許せないのでは無く、私を蔑ろにして他の女と関係を持ち、浮気に気付かない私を腹の底で笑い下に見て、馬鹿にしてたのが気に食わなかった。

舞台女優が妊娠して、責任を取る形で元彼氏は結婚した。

が、噂では一年足らずで離婚したらしい。

私には関係無いので、どうでも良かった。


……野津くんに惹かれていた。

好きになってたんだと、認めたらほんの少し心が軽くなった。


「“待って!行かないで!!”」

教室から出て行こうとする広い背中に、私は悲痛な声を上げ抱き付いた。

「“好き、……好きなの。”」

私が腕を解くと、振り返り私の顔を覗き込んだ。

「“意地悪してごめん。オレも好きだよ。”」

涙を流す私の頬を撫でると、顔が近付き唇が重なった。

監督のカットが掛かり、体を離すとマネージャーの輪島さんが、ティッシュを差し出してくれたので、擦って赤くならないよう注意して涙を拭いた。

メイクさんが化粧直しをしてくれて、また別角度からキスシーンの撮影が始まった。


野津くんの唇は、マシュマロみたいに柔らかくて、……甘い気がした。


野津くんとアリサちゃんの連絡先を消した。

二人にとって私は、友達でも無かった。


ただの仕事仲間だと思い知らされた。

特別な感情を持ってたのは、私だけ。


酷く惨めな気持ちになった。

恋愛が向いてないのは、とっくの昔に自覚していた。

俺と仕事、どっちが大事なのかと聞いてくる、女々しい男。

浮気しといて開き直る男。

好きかも良く分からない相手と付き合い、キスをしてセックスをして……。

……私にも非があったのは認める。


だから、三人目の彼氏は作らなかった。

誰とも付き合わず、気が向いた時に遊ぶくらいが丁度良かった。

割り切った関係が。


永遠は私が知る限り、彼女が途切れた事が無い。

別れたと思ったら新しい彼女が出来ていて、毎回、紹介されても覚えられないから会わせないでくれと高校時代に頼んだ。



「今日は静かだね。」

水槽の中を浮遊するクラゲをぼんやり眺めてると、隣に座る玲音にそう言われて、長い腕が私の肩に回り距離が近くなった。

玲音からは趣味の良い、香水の香りがする。

「いつも五月蠅いみたいに言わないでくれる?」

「気分を害したなら謝るよ。」

玲音はごめんね?と、悪びれず口だけで謝ると私の頬にキスをした。

カウンターの中のバーテンダーは、何も見てませんよ、知りませんって顔で仕事を続けていた。


玲音と待ち合わせたのは会員制のバー。

ハイブランドの広告を務めたり、雑誌の表紙を飾る名の知られたモデルで、玲音と知り合ったのは、私が二十歳になりお酒の味を覚えたばかりの頃である。

事務所の社長に連れられて行った、どっかの企業のパーティーで初めて会った。

派手に着飾った紳士淑女の中で一際目立ち、彫刻みたいに何もかも整っていて、溢れんばかりの美貌に見惚れる私に玲音はウインクをして、

“退屈なパーティーを抜け出さない?”

と、魅力的な提案をしてくれた。


挨拶をして顔を売るのも仕事の内だが、お偉い様方の話はつまらなかった。


私はカクテルを三杯飲んで、玲音はウイスキーをロックで二杯飲んだ。

バーを出てタクシーに乗り込み、玲音の住む高級マンションに向かい走り出した。

タクシーの車内では、私の手を玲音が握っていた。


玲音の部屋から望む夜景は、いつ見ても綺麗だった。



目が覚めると、玲音の腕の中にいた。

素肌に体温を感じて心地良い。

玲音の寝顔は無防備で、伏せられた睫毛は濃くて長い。

玲音にはロシアの血が入ってるから、骨格が日本人離れしてる。

……アリサちゃんは確か、ドイツとのハーフだった。


私は黒髪ストレートに濃褐色の目、日本人らしい顔立ちをしていて、永遠から正妻顔と言われた事がある。

年末の時代劇特番でお姫様の役をやって、側室顔と呼ばれるよりは良かった。

永遠は武将顔になって来たなと、思う。

子役時代は美少年として知られたが、今は体の線が太くなり、全体的にがっしりとした印象がある。

キャリアを着実に重ねて、オファーの絶えない演技派俳優に成長した。

役作りで体重の増減が激しいのは心配だが……。


玲音の腕から抜け出し、ベッドルームの床に散らばる下着と服を拾って身に付けた。

まだ寝てる玲音を起こさない様、静かにドアを閉めマンションを後にした。


玲音と会う時はバーで飲むか、軽くご飯を済ませて部屋に行く事が多かった。

玲音はフットワークが軽いから、当日急に連絡しても会えた。

交友関係が広く、毎週何かしらのパーティーに顔を出していた。

ガールフレンドもいっぱいいるが、私と玲音はレストランでフルコースを食べる、そんな間柄では無かった。

玲音にエスコートされたい女性は数知れず。


私が住むマンションは、玲音が住む高級マンションと比べると見劣りすけど、セキュリティがしっかりしていて、日当たりと間取りが気に入ってる。

朝、輪島さんが迎えに来て、車内でコンビニで買って来てくれた、おにぎりかパンを食べる。

昼は現場で用意されてる弁当や差し入れを。

夜は輪島さんとファミレスに行くか、自分でご飯を作る気力が残ってたら、スーパーで買出しして帰宅。

後片付けが面倒臭くて、料理はあんまり好きじゃない。


……野津くんとアリサちゃんは、いつから付き合ってるんだろ。

二人の熱愛報道が出て、ファンや世間からは祝福する声と非難する声、両方があった。


私は嘘でも幸せを願えない。

早く別れれば良いのに……。


別れたとしても、私が付き合えると自惚れてはない。

誰の物にもなって欲しくない。


そんな自分勝手な思いがあった。



玲音が着ている、上質なシルクのシャツのボタンを外した。

玲音は芸術的だ。

眩しい程、真っ白な肌に鎖骨がくっきりと浮かび。

喉仏が男らしく発達していて、淡い色の乳首に割れてる腹筋。

私は肌に唇を落とし、リップ音を鳴らしながら下に下がっていく。

肋骨の数を数える様に、手を這わせると擽ったいのか、筋肉が動いて反応した。

形の良い臍に窪みに舌を入れたりした。


私の髪を撫でる玲音の手は、大きく優しかった。


玲音が喘ぐくらい、気持ち良くなるまでご奉仕するのは楽しい。

美しい顔が快楽に歪み、漏らす声と吐息は、壮絶な色気を孕んでいた。



野津くんはどんな風に触れて、……女を抱くか。

欲望に溺れる姿も、魅力的なのだろう。


野津くんに抱かれる女が羨ましい。

……妬ましかった。


愛を与えられるなんて。