『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

遼河さんが。

わずかに息を止めた。

言ってから。

急に恥ずかしくなる。

「……今だけ」

慌てて付け足す。

「今だけでいいから」

「綾乃」

「何」

「今だけじゃない」

顔を上げた。

遼河さんが。

まっすぐ私を見ていた。

「俺は最初から、どこにも行ってない」

胸の奥へ。

その言葉が。

静かに落ちた。

意味を全部理解するには。

今の頭は。

少し酔いすぎている。

でも。

何となく。

泣きそうになった。

「……ずるい」

「何が」

「そういうこと言うの」

「事実だ」

「……知らない」

もう。

何も考えたくなくて。

私はまた。

遼河さんの肩へ頭を預けた。

あたたかい。

それだけで。

今はよかった。

根拠なんて。

最初から何一つなかった。

それなのに私は。

存在しない婚約を信じて。

十三年間。

一人で勝手に諦め続けていた。

そして。

その根拠のない攻防戦の先で。

諦めたはずの気持ちが。

もう一度。

静かに息を吹き返している。

好きだとは。

まだ。

言えない。

どうしても。

そこだけは。

言えなかった。

けれど。

離れたくないとは。

言ってしまった。

それだけで。

今夜は。

もう十分だった。

少なくとも。

十三年間。

ずっと閉ざしていた扉は。

ほんの少しだけ。

確かに。

開いてしまったのだから。

その先で待っているものを。

この時の私は。

まだ。

知らなかった。