『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

「婚約も?」

「ない」

「でも……蘭、ずっと言ってた」

「蘭さんが何を言っていたかは知らない。でも、俺が受け入れた事実は一つもない」

迷いなく。

そう言われた。

嬉しい。

はずなのに。

胸の奥は。

それだけでは済まなかった。

「……じゃあ」

喉が詰まる。

「じゃあ……何だったの」

「綾乃?」

「私……」

言いたい。

でも。

言えない。

好きだった。

ずっと。

ただそれだけなのに。

その言葉だけが。

どうしても出てこない。

「私……その……」

「うん」

「だって……遼河さんが……蘭の……だと思って」

「違う」

「だから……私……」

続かない。

嬉しいのか。

悔しいのか。

泣きたいのか。

分からなかった。

十三年間。

当たり前だと思っていたものが。

最初から、どこにも存在していなかった。

「……ばかみたい」

ぽつりと。

漏れた。

「何が」

「私」

「何で」

「だって……ずっと……」

また。

止まる。

好きだった。

言えばいいのに。

たったそれだけなのに。

「ずっと……何だ」

遼河さんの声が。

少しだけ柔らかくなる。

私は。

しばらく黙って。

それから。

首を振った。

「……言わない」

「何で」

「言えないから」

「今さら?」

「今さらだから……」

自分でも。

何を言っているのか分からない。

でも。

遼河さんは笑わなかった。

「じゃあ、無理に言わなくていい」

その言葉が。

余計に。

胸に刺さった。

優しくされたら。

もっと言いたくなるのに。

もっと。

言えなくなる。

私は。

遼河さんの袖を少し強く握った。

「……でも」

「うん」

「どこにも行かないで」