『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

「何が」

「蘭」

「蘭さん?」

「それ」

「昔からそう呼んでるだろ」

「……そうだけど」

何が言いたいのか。

自分でも分からない。

ただ。

妙に。

その距離のある呼び方が。

今は少し。

嬉しかった。



控室へ移ると。

遼河さんは私をソファへ座らせた。

「水」

差し出されたグラスを受け取る。

一口。

「もう一口」

「……子どもじゃないんだから」

「なら、ちゃんと飲め」

「はいはい」

言われるまま。

もう一口飲む。

ジュリアンは状況を確認するため、部屋を出ていった。

扉が閉まる。

二人きりになった途端。

さっきまでの騒がしさが嘘のように。

静かになった。

遼河さんは、私の前に立ったまま。

少し怖い顔をしている。

「……怒ってる?」

「怒ってる」

「私に?」

「違う」

即答。

それだけで。

何だか嬉しくなって。

少し笑った。

「よかった」

「何が」

「私じゃなくて」

「お前に怒る理由がない」

「……そっか」

また。

胸があたたかくなる。

たぶん。

お酒のせい。

全部。

お酒のせい。

そう思うのに。

目の前の遼河さんが。

いつもより。

ずっと近く感じた。

私は。

遼河さんの袖をつまむ。

「綾乃?」

「……座って」

「ここにいる」

「違う。座って」

「何で」

「……遠い」

遼河さんが。

止まった。

私も。

自分で何を言っているのか分からない。

「遠いから……そこ」