『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

警戒はした。

けれど。

仕事が始まれば、そればかり気にしているわけにもいかない。

海外からの招待客への対応。

関係者への挨拶。

遼河さんの予定確認。

次々と声をかけられているうちに。

二人への意識は、少しずつ薄れていった。

だから。

近くを通ったスタッフから差し出されたグラスにも。

何の疑問も持たなかった。

軽いカクテル。

そう聞いていた。

一口。

二口。

それだけ。

なのに。

しばらくして。

身体の奥から、じわじわと熱が広がり始めた。

「……ん?」

頬が熱い。

頭も少し浮いているような感覚がする。

足元まで。

わずかに頼りない。

近くのテーブルへ手をついた。

おかしい。

こんな酔い方。

したことがない。

「綾乃?」

聞き慣れた声に。

顔を上げた。

遼河さんが、こちらへ歩いてくる。

「どうした」

「……何でもない」

「何でもない顔じゃない」

すぐ近くまで来ると。

私の顔を覗き込んだ。

近い。

そう思った途端。

なぜか。

急に安心した。

「ちょっとだけ……酔ったかも」

「何杯飲んだ」

「んー……」

考える。

「一杯……じゃない。二口?」

「二口?」

遼河さんの表情が変わった。

すぐに私の手からグラスを取り上げる。

「ジュリアン」

短い声だけで。

ジュリアンも何かを察した。

その時だった。

「大丈夫ですか?」

知らない男性が近づいてくる。

「かなりお辛そうですし、別室で少し休まれた方が――」

そう言って。

私へ手を伸ばした。

ぼんやりした頭で、その手を見つめる。

けれど。

触れるより先に。

身体が後ろへ引かれた。

「必要ない」

低い声。

気づけば。

私は遼河さんの腕の中にいた。

腰を支える腕。

背中に伝わる体温。

「あ……」

「綾乃、俺のそばにいろ」

耳元近くでそう言われて。

胸が変な音を立てた。

「……うん」

素直に頷いてしまった。

いつもなら。

そんな返事しないのに。

でも。

今は。

離れたくなかった。

男性が何か言い訳をしている。

ジュリアンが警備へ連絡している。

周囲が慌ただしくなる中。

私は。

遼河さんの腕を、そっと掴んだ。

「綾乃?」

「……ここにいて」