『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

そんな日々の中。

次の仕事が近づいていた。

政府系機関と複数の民間企業が共同で開催する、国際交流を兼ねた大規模なパーティー。

KSサイエンスからは遼河さんをはじめ、役員や関係部署の責任者も出席する。

当然。

専属秘書である私も同行。

問題は。

「……正装って、何着て行けばいいのよ」

休日の午前。

リビングのソファに座りながら、私はスマートフォンの画面と睨み合っていた。

ドレスコードはフォーマル。

仕事として参加する以上、華美すぎるものは避けたい。

でも。

政府関係者だけでなく、海外からの招待客も多い。

中途半端な装いもできない。

ネイビー?

黒?

丈は?

袖は?

アクセサリーは?

「……面倒くさい」

考えれば考えるほど分からなくなり、スマートフォンをソファへ放った。

その時。

廊下の向こうから、佐知子さんの声がした。

「お嬢様〜。お荷物が届きましたよ」

「えっ?」

荷物?

何か頼んだっけ。

「どこからですか?」

「海外便みたいですよ」

海外?

玄関へ向かうと。

そこには、かなり大きな箱が二つ。

その上に、細長い箱が一つ置かれていた。

「……何これ」

送り状を見る。

差出人。

MÉLA VIE ENCA GROUP

その下に。

MAYUKO

「……お母様?」

嫌な予感がする。

いや。

嫌というより。

大掛かりな予感。

「開けてみましょうか」

佐知子さんが、すでに楽しそうにしている。

「……ちょっと怖いんですけど」

「お母様からでしょう?」

「だから怖いんです」

世界的なメイクアップアーティストが、娘の『パーティーに何着て行けばいいのか分からない』という問題に介入すると。

たぶん。

普通では終わらない。

恐る恐る箱を開ける。

薄紙をめくった瞬間。

言葉を失った。

中に収められていたのは。

深い夜の色を思わせる、ネイビーのドレス。

光の加減でわずかに艶が浮かび、派手ではないのに、一目で上質だと分かる。

そして。

どう見ても。

私のサイズ。

もう一つの箱には、ドレスに合わせたパンプスとクラッチバッグ。

細長い箱には、控えめながら存在感のあるジュエリー。

その上に。

一枚のカード。

『悩んでると思ったから。全部揃えておいたわ。――MAYUKO』

「……」

何で分かるの。

「佐知子さん」

「はい」

「私、まだ誰にも服で悩んでるなんて言ってないんですけど」

「まあ」

「“まあ”じゃなくて」

佐知子さんは、にこにこと笑う。

「お母様というものは、分かるものなのでは?」

「特殊能力みたいに言わないでください」

でも。

もう一度、ドレスを見る。

悔しいけれど。

完璧だった。

私が自分で選んでも。

きっと。

こういうものを選ぶ。

「……さすがなのよね」

「きっと、お似合いになりますよ」

「まだ着てないですよ」

「分かります」

また。

その謎の自信。

私は苦笑しながら、カードへ視線を落とした。

離れていても。

こうして当たり前のように、私のことを考えてくれる人がいる。

まだ少し。

不思議だった。

でも。

以前のように戸惑うだけではなくなった。

「……ありがとう、お母様」

誰にも聞こえないくらいの声で。

そう呟いた。