そんな日々の中。
次の仕事が近づいていた。
政府系機関と複数の民間企業が共同で開催する、国際交流を兼ねた大規模なパーティー。
KSサイエンスからは遼河さんをはじめ、役員や関係部署の責任者も出席する。
当然。
専属秘書である私も同行。
問題は。
「……正装って、何着て行けばいいのよ」
休日の午前。
リビングのソファに座りながら、私はスマートフォンの画面と睨み合っていた。
ドレスコードはフォーマル。
仕事として参加する以上、華美すぎるものは避けたい。
でも。
政府関係者だけでなく、海外からの招待客も多い。
中途半端な装いもできない。
ネイビー?
黒?
丈は?
袖は?
アクセサリーは?
「……面倒くさい」
考えれば考えるほど分からなくなり、スマートフォンをソファへ放った。
その時。
廊下の向こうから、佐知子さんの声がした。
「お嬢様〜。お荷物が届きましたよ」
「えっ?」
荷物?
何か頼んだっけ。
「どこからですか?」
「海外便みたいですよ」
海外?
玄関へ向かうと。
そこには、かなり大きな箱が二つ。
その上に、細長い箱が一つ置かれていた。
「……何これ」
送り状を見る。
差出人。
MÉLA VIE ENCA GROUP
その下に。
MAYUKO
「……お母様?」
嫌な予感がする。
いや。
嫌というより。
大掛かりな予感。
「開けてみましょうか」
佐知子さんが、すでに楽しそうにしている。
「……ちょっと怖いんですけど」
「お母様からでしょう?」
「だから怖いんです」
世界的なメイクアップアーティストが、娘の『パーティーに何着て行けばいいのか分からない』という問題に介入すると。
たぶん。
普通では終わらない。
恐る恐る箱を開ける。
薄紙をめくった瞬間。
言葉を失った。
中に収められていたのは。
深い夜の色を思わせる、ネイビーのドレス。
光の加減でわずかに艶が浮かび、派手ではないのに、一目で上質だと分かる。
そして。
どう見ても。
私のサイズ。
もう一つの箱には、ドレスに合わせたパンプスとクラッチバッグ。
細長い箱には、控えめながら存在感のあるジュエリー。
その上に。
一枚のカード。
『悩んでると思ったから。全部揃えておいたわ。――MAYUKO』
「……」
何で分かるの。
「佐知子さん」
「はい」
「私、まだ誰にも服で悩んでるなんて言ってないんですけど」
「まあ」
「“まあ”じゃなくて」
佐知子さんは、にこにこと笑う。
「お母様というものは、分かるものなのでは?」
「特殊能力みたいに言わないでください」
でも。
もう一度、ドレスを見る。
悔しいけれど。
完璧だった。
私が自分で選んでも。
きっと。
こういうものを選ぶ。
「……さすがなのよね」
「きっと、お似合いになりますよ」
「まだ着てないですよ」
「分かります」
また。
その謎の自信。
私は苦笑しながら、カードへ視線を落とした。
離れていても。
こうして当たり前のように、私のことを考えてくれる人がいる。
まだ少し。
不思議だった。
でも。
以前のように戸惑うだけではなくなった。
「……ありがとう、お母様」
誰にも聞こえないくらいの声で。
そう呟いた。
次の仕事が近づいていた。
政府系機関と複数の民間企業が共同で開催する、国際交流を兼ねた大規模なパーティー。
KSサイエンスからは遼河さんをはじめ、役員や関係部署の責任者も出席する。
当然。
専属秘書である私も同行。
問題は。
「……正装って、何着て行けばいいのよ」
休日の午前。
リビングのソファに座りながら、私はスマートフォンの画面と睨み合っていた。
ドレスコードはフォーマル。
仕事として参加する以上、華美すぎるものは避けたい。
でも。
政府関係者だけでなく、海外からの招待客も多い。
中途半端な装いもできない。
ネイビー?
黒?
丈は?
袖は?
アクセサリーは?
「……面倒くさい」
考えれば考えるほど分からなくなり、スマートフォンをソファへ放った。
その時。
廊下の向こうから、佐知子さんの声がした。
「お嬢様〜。お荷物が届きましたよ」
「えっ?」
荷物?
何か頼んだっけ。
「どこからですか?」
「海外便みたいですよ」
海外?
玄関へ向かうと。
そこには、かなり大きな箱が二つ。
その上に、細長い箱が一つ置かれていた。
「……何これ」
送り状を見る。
差出人。
MÉLA VIE ENCA GROUP
その下に。
MAYUKO
「……お母様?」
嫌な予感がする。
いや。
嫌というより。
大掛かりな予感。
「開けてみましょうか」
佐知子さんが、すでに楽しそうにしている。
「……ちょっと怖いんですけど」
「お母様からでしょう?」
「だから怖いんです」
世界的なメイクアップアーティストが、娘の『パーティーに何着て行けばいいのか分からない』という問題に介入すると。
たぶん。
普通では終わらない。
恐る恐る箱を開ける。
薄紙をめくった瞬間。
言葉を失った。
中に収められていたのは。
深い夜の色を思わせる、ネイビーのドレス。
光の加減でわずかに艶が浮かび、派手ではないのに、一目で上質だと分かる。
そして。
どう見ても。
私のサイズ。
もう一つの箱には、ドレスに合わせたパンプスとクラッチバッグ。
細長い箱には、控えめながら存在感のあるジュエリー。
その上に。
一枚のカード。
『悩んでると思ったから。全部揃えておいたわ。――MAYUKO』
「……」
何で分かるの。
「佐知子さん」
「はい」
「私、まだ誰にも服で悩んでるなんて言ってないんですけど」
「まあ」
「“まあ”じゃなくて」
佐知子さんは、にこにこと笑う。
「お母様というものは、分かるものなのでは?」
「特殊能力みたいに言わないでください」
でも。
もう一度、ドレスを見る。
悔しいけれど。
完璧だった。
私が自分で選んでも。
きっと。
こういうものを選ぶ。
「……さすがなのよね」
「きっと、お似合いになりますよ」
「まだ着てないですよ」
「分かります」
また。
その謎の自信。
私は苦笑しながら、カードへ視線を落とした。
離れていても。
こうして当たり前のように、私のことを考えてくれる人がいる。
まだ少し。
不思議だった。
でも。
以前のように戸惑うだけではなくなった。
「……ありがとう、お母様」
誰にも聞こえないくらいの声で。
そう呟いた。
