『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

お父様がカリフォルニアへ旅立ってから、三か月が過ぎた。

手術は無事に終わり、今は治療を続けながら、落ちた体力を戻すためのリハビリに励んでいるらしい。

――励んでいる。

というより。

『毎日、真悠子に怒られている』

本人から送られてくるメッセージを見る限り、半ば強制的に励まされている、と言った方が正しいのかもしれない。

無理をしようとすれば止められ。

仕事の資料を開けば取り上げられ。

食事を残せば、最後まで食べろと言われる。

先日の電話では、

『私はもう六十二だぞ』

と、お父様が珍しく弱音を吐いた直後。

少し離れたところから、

『年齢を言い訳にしない!』

という真悠子の声が聞こえてきた。

そのあと、電話の向こうが妙に静かになったので。

たぶん。

また怒られたのだと思う。

……お父様を本気で叱れる人って、いたんだ。

そう思うと。

少しだけ安心した。

療養の合間には、弟たちの相手もしているようで、経営学や企業分析の話をしたり、資料を広げながら経営判断について意見を交わしたりしているらしい。

本人は『暇つぶしだ』と言っているけれど。

弟たちから届く連絡を見る限り。

どう考えても講義になっている。

トーマスとは、今後の鷹宮グループについて何度も話をしているという。

何を残し。

何を切り離し。

これから先を、どう立て直していくのか。

当然そこには、私のことも含まれているのだろう。

けれど。

今のところ、詳しいことまでは聞かされていない。

志水さんも、その三か月の間に何度か日本へ戻ってきていた。

お父様に同行しているとはいえ、日本で片づけなければならない仕事もある。

数日だけ帰国し、必要なことを処理して、またカリフォルニアへ戻る。

ただし。

どうやら。

普通のルートでは往復していないらしい。

以前、それとなく尋ねた時。

志水さんは、いつもの穏やかな笑顔で、

『念には念を、でございます』

そう答えただけだった。

それ以上は教えてくれなかった。

表向き。

お父様は今も、海外企業との交渉や現地法人の調整を理由にした長期出張中。

半年ほど日本を離れる。

早紀子さんと蘭には、それだけが伝えられている。

そして。

今のところ。

二人とも、何の疑いも抱いていないらしい。

そこまで聞いた時には。

もう、呆れるしかなかった。

知らないというより。

知ろうとしていないのかもしれない。

自分たちにとって都合のいい説明だけを信じている。

――まあ。

こちらとしては、その方が助かるけれど。