言った瞬間。
横から。
「呼んだ?」
振り返る。
ジュリアン。
なぜ。
このタイミング。
「呼んでない」
「Lawyerって聞こえたけど」
――弁護士って聞こえたけど。
「地獄耳」
「ありがとう」
「褒めてない」
ジュリアンは蘭へ視線を向け。
いつものように英語へ切り替える。
“Is there a problem?”
――何か問題でも?
私は蘭を見たまま答えた。
“No. Not yet.”
――いいえ。今のところは。
今のところは。
そこだけ。
少し強く。
蘭にも意味は伝わったらしい。
顔が、わずかに強張った。
ジュリアンが笑顔のまま続ける。
“Then let’s go.”
――それなら行こう。
私は最後に蘭を見た。
「さっき言ったこと、忘れないでね」
それだけ告げ。
その場を離れた。
しばらく歩いたところで。
ジュリアンが日本語へ戻る。
「ずいぶん強くなったね」
「何が?」
「昔の君なら、あそこまで言わなかった」
少し考え。
私は肩をすくめた。
「……仕事の邪魔されたから」
「それだけ?」
「それだけ」
半分は強がり。
でも。
半分は本当だった。
蘭が遼河さんへ近づくことよりも。
私がこの一年で築いてきた仕事の場所へ。
昔と同じ感覚で踏み込まれる方が。
ずっと腹が立った。
「それにしても」
ジュリアンが笑う。
「弁護士を通す、か」
「何よ」
「いや。いいと思うよ」
「最初は“迷惑罪で訴える”って言おうと思った」
ジュリアンが足を止めた。
「迷惑罪?」
「……ないの?」
「少なくとも、その名前の犯罪はないね」
「言わなくてよかった」
「危なかったね」
「笑わないで」
「ごめん」
絶対。
反省していない。
でも。
その日を境に。
蘭が姿を見せる回数は、少しだけ減った。
私がはっきり線を引いたことが効いたのか。
ジュリアンの前で弁護士という言葉が出たことで、さすがにまずいと思ったのか。
理由は分からない。
ただ。
しばらく。
穏やかな日々が戻った。
横から。
「呼んだ?」
振り返る。
ジュリアン。
なぜ。
このタイミング。
「呼んでない」
「Lawyerって聞こえたけど」
――弁護士って聞こえたけど。
「地獄耳」
「ありがとう」
「褒めてない」
ジュリアンは蘭へ視線を向け。
いつものように英語へ切り替える。
“Is there a problem?”
――何か問題でも?
私は蘭を見たまま答えた。
“No. Not yet.”
――いいえ。今のところは。
今のところは。
そこだけ。
少し強く。
蘭にも意味は伝わったらしい。
顔が、わずかに強張った。
ジュリアンが笑顔のまま続ける。
“Then let’s go.”
――それなら行こう。
私は最後に蘭を見た。
「さっき言ったこと、忘れないでね」
それだけ告げ。
その場を離れた。
しばらく歩いたところで。
ジュリアンが日本語へ戻る。
「ずいぶん強くなったね」
「何が?」
「昔の君なら、あそこまで言わなかった」
少し考え。
私は肩をすくめた。
「……仕事の邪魔されたから」
「それだけ?」
「それだけ」
半分は強がり。
でも。
半分は本当だった。
蘭が遼河さんへ近づくことよりも。
私がこの一年で築いてきた仕事の場所へ。
昔と同じ感覚で踏み込まれる方が。
ずっと腹が立った。
「それにしても」
ジュリアンが笑う。
「弁護士を通す、か」
「何よ」
「いや。いいと思うよ」
「最初は“迷惑罪で訴える”って言おうと思った」
ジュリアンが足を止めた。
「迷惑罪?」
「……ないの?」
「少なくとも、その名前の犯罪はないね」
「言わなくてよかった」
「危なかったね」
「笑わないで」
「ごめん」
絶対。
反省していない。
でも。
その日を境に。
蘭が姿を見せる回数は、少しだけ減った。
私がはっきり線を引いたことが効いたのか。
ジュリアンの前で弁護士という言葉が出たことで、さすがにまずいと思ったのか。
理由は分からない。
ただ。
しばらく。
穏やかな日々が戻った。
