『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

蘭の表情が、わずかに強張った。

「遼河さん本人が、はっきり否定したでしょう。あなたとの婚約を一度も受け入れていない。ご両親も了承していない。公の場で、本人がそう言った」

「でも――」

「でもじゃない」

声は荒げなかった。

その必要がない。

「それ以上、何をどう解釈したら、まだ婚約話が残ってるの?」

蘭の目が揺れる。

でも。

すぐに私を睨んだ。

「お姉様がいるからでしょう」

「何が?」

「お姉様が、遼河さんのそばにいるから」

「仕事です」

「本当に?」

少し声を落とし。

蘭が言った。

「お姉様、昔から遼河さんのこと好きだったでしょう?」

胸が一度。

大きく鳴った。

十三歳の頃。

誰にも言わなかった気持ち。

まさか、気づいていたのか。

そう思ったのも束の間。

「だから私の邪魔してたんでしょう?」

その一言で。

逆に冷静になった。

違う。

この人は。

何も知らない。

ただ。

自分が欲しいものを手に入れられない理由を、全部私のせいにしているだけ。

「蘭」

私は静かに名前を呼んだ。

「私はあなたの邪魔なんて、一度もしてない」

むしろ。

あの頃の私は、自分から離れた。

自分の気持ちまで閉じ込めた。

けれど。

今さら。

それを蘭へ理解してもらおうとは思わない。

「それより、これ以上仕事先まで追いかけてきて、業務を邪魔するのはやめて」

「追いかけてなんか――」

「一回なら偶然。二回でも、まだ偶然かもしれない。でも、これで何回目?」

蘭は答えなかった。

「会社にも来たよね」

「会いに行っただけでしょう」

「アポイントなしでCEOへ?」

「昔から知ってるんだから」

「だから何?」

自分でも驚くほど。

声は落ち着いていた。

ここは鷹宮家ではない。

私は、自分の仕事をしている。

一年かけて。

自分の力で作った居場所にいる。

家族だから。

妹だから。

昔から知っているから。

そんな理由で、勝手に踏み込まれる筋合いはない。

「次に同じことをしたら、会社として対応してもらいます」

「脅してるの?」

「警告してるの」

蘭の顔が引きつる。

「必要なら、弁護士を通すから」