『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

「鷹宮さん」

城之内さんが静かに言う。

「顔に出ています」

「何がです?」

「少し楽しんでますよね」

「まさか」

否定した、その時。

「何これ」

横から一ノ瀬さんの声がした。

私はゆっくり顔を上げる。

「……何でいるんですか」

「受付がセキュリティ対応に切り替わったって通知が来たから」

アポイントなしでCEOへの面会を繰り返し要求。

しかも来訪者は、先日のパーティーで盛大に婚約話を否定された蘭。

一定回数以上の要求が繰り返された時点で、関係部署の管理者端末にも警告が共有されたらしい。

知っていること自体は、おかしくない。

問題は。

なぜ自分の席ではなく、わざわざ秘書課まで来たのか。

「自分の端末で見られますよね?」

「見られるよ」

「じゃあ何で」

「こっちの方が面白そうだから」

言い切った。

「一ノ瀬さん」

城之内さんが低い声で呼ぶ。

「仕事へ戻ってください」

「あとちょっと」

「戻ってください」

「はいはい」

返事だけ。

動かない。

さらに。

「何してるの?」

今度は白鳥さん。

「……白鳥さんまで」

「総務にも通知が来たから見に来たの」

そこまでは分かる。

でも。

顔が楽しそうなのは、どういうこと。

「白鳥さんも戻ってください」

城之内さんが言う。

「まだ何もしてないでしょう」

「だからです。これ以上、人を増やしたくありません」

その言葉が終わる前に。

秘書課の入口から。

「真崎ー!」

声が響いた。

笹倉さん。

「真崎、どこ行った!」

また探してる。

笹倉さんにとって、真崎さんはほぼ必需品。

なのに本人は、通常の自席にほとんどいない。

「こっちにいるんじゃないですか?」

一ノ瀬さんが言う。

「何でだよ」

「面白いこと起きてるから」

「だから何でそれで真崎が――」

笹倉さんが秘書課へ入ってきて。

止まった。

城之内さんの席の横。

普通に端末を開いている人影。

「……真崎」

いた。

いつから。

「何ですか」

真崎さんが平然と顔を上げる。

「お前、いつからここにいる」

「少し前からです」

「自席は?」

「あります」

「そういう意味じゃない!」

一ノ瀬さんが横を向いて笑いを堪え、白鳥さんはすでに完全に楽しんでいる。

城之内さんだけが、頭を抱えそうな顔をしていた。

「皆さん」

静かな声。

「なぜ秘書課に集まっているんですか」

誰も答えない。

答えなくても理由は一つ。

面白そうだから。

その時。

真崎さんの端末に、受付映像が大きく表示された。

私たちの画面にも、権限に応じて同じ映像が共有される。

エントランスで、蘭が明らかに苛立った顔をしていた。