藤和グループの創立記念パーティーから、一週間ほどが過ぎた。
あの日、大勢の前で遼河さん本人から婚約話をきっぱり否定された蘭は、さすがにしばらく大人しくなるだろう。
私は本気でそう思っていた。
普通なら、あれだけはっきり、
『そのような事実はありません』
と言われれば、一度くらい自分の言動を振り返る。
少なくとも。
私ならそうする。
けれど。
どうやら私は、蘭という人間を少し甘く見ていたらしい。
その日の午前。
私は秘書課のデスクで、午後の会議資料を確認していた。
遼河さんは別フロアで経営会議。
城之内さんは少し離れた席で、来週の予定を調整している。
珍しく静かな午前だった。
今日は落ち着いて仕事ができそう。
そう思っていた、その時。
業務端末の右上に、小さな通知音とともに来訪者情報が表示された。
何気なく視線を向ける。
そして。
手が止まった。
《来訪者通知》
来訪者:鷹宮 蘭
訪問希望先:代表取締役CEO 藤和遼河
アポイント登録:なし
「……は?」
思わず声が出た。
見間違いかと思って画面を見直す。
でも。
何度見ても。
鷹宮蘭。
「何で?」
小さく漏れた声に、城之内さんが顔を上げた。
「どうしました?」
「……来ました」
「何がです?」
「蘭が」
城之内さんの手が止まる。
「ここへ?」
「はい」
画面を向けると、表示を確認した城之内さんは、わずかに眉を寄せた。
「アポイントなしですね」
「ですね」
「では、通常対応でお断りになります」
「ですよね」
それで終わる。
――はずだった。
KSサイエンスの受付は無人で、来訪者はエントランスのAI受付端末から本人確認と訪問先の入力を行う。
事前登録されたアポイントが確認できれば、該当部署へ通知が入り、必要な認証を経て入館ゲートが開く。
逆に。
登録がなければ。
基本的に、入れない。
当然、蘭の前にある画面には、
《登録済みのアポイントが確認できません》
《藤和CEOへの面会は承認されませんでした》
そう表示されているはずだった。
私はそこで仕事へ戻ろうとした。
けれど。
数秒後。
また通知が入る。
《来訪者からメッセージがあります》
画面を開く。
《藤和遼河さんとは昔からの知り合いです。本人に確認してください》
「……」
本人に確認してもらえる前提なのが、すごい。
AIは至って冷静だった。
《“以前からの知り合い”であることは、当社の入館資格には該当しません》
「……強い」
思わず漏れた。
城之内さんも画面を見る。
「標準文言です」
「標準でこれなんですね」
「セキュリティ部門監修ですから」
なるほど。
真崎。
納得しかない。
また通知。
《私は鷹宮綾乃の妹です。姉に確認してください》
今度は。
私?
「何で私まで使うのよ」
AIは一切の忖度なく答える。
《ご家族・ご友人であることは、面会権限を意味しません》
続けて。
《鷹宮綾乃様との親族関係は、藤和CEOへの面会承認条件には該当しません》
「……」
ちょっと好きかもしれない。
あの日、大勢の前で遼河さん本人から婚約話をきっぱり否定された蘭は、さすがにしばらく大人しくなるだろう。
私は本気でそう思っていた。
普通なら、あれだけはっきり、
『そのような事実はありません』
と言われれば、一度くらい自分の言動を振り返る。
少なくとも。
私ならそうする。
けれど。
どうやら私は、蘭という人間を少し甘く見ていたらしい。
その日の午前。
私は秘書課のデスクで、午後の会議資料を確認していた。
遼河さんは別フロアで経営会議。
城之内さんは少し離れた席で、来週の予定を調整している。
珍しく静かな午前だった。
今日は落ち着いて仕事ができそう。
そう思っていた、その時。
業務端末の右上に、小さな通知音とともに来訪者情報が表示された。
何気なく視線を向ける。
そして。
手が止まった。
《来訪者通知》
来訪者:鷹宮 蘭
訪問希望先:代表取締役CEO 藤和遼河
アポイント登録:なし
「……は?」
思わず声が出た。
見間違いかと思って画面を見直す。
でも。
何度見ても。
鷹宮蘭。
「何で?」
小さく漏れた声に、城之内さんが顔を上げた。
「どうしました?」
「……来ました」
「何がです?」
「蘭が」
城之内さんの手が止まる。
「ここへ?」
「はい」
画面を向けると、表示を確認した城之内さんは、わずかに眉を寄せた。
「アポイントなしですね」
「ですね」
「では、通常対応でお断りになります」
「ですよね」
それで終わる。
――はずだった。
KSサイエンスの受付は無人で、来訪者はエントランスのAI受付端末から本人確認と訪問先の入力を行う。
事前登録されたアポイントが確認できれば、該当部署へ通知が入り、必要な認証を経て入館ゲートが開く。
逆に。
登録がなければ。
基本的に、入れない。
当然、蘭の前にある画面には、
《登録済みのアポイントが確認できません》
《藤和CEOへの面会は承認されませんでした》
そう表示されているはずだった。
私はそこで仕事へ戻ろうとした。
けれど。
数秒後。
また通知が入る。
《来訪者からメッセージがあります》
画面を開く。
《藤和遼河さんとは昔からの知り合いです。本人に確認してください》
「……」
本人に確認してもらえる前提なのが、すごい。
AIは至って冷静だった。
《“以前からの知り合い”であることは、当社の入館資格には該当しません》
「……強い」
思わず漏れた。
城之内さんも画面を見る。
「標準文言です」
「標準でこれなんですね」
「セキュリティ部門監修ですから」
なるほど。
真崎。
納得しかない。
また通知。
《私は鷹宮綾乃の妹です。姉に確認してください》
今度は。
私?
「何で私まで使うのよ」
AIは一切の忖度なく答える。
《ご家族・ご友人であることは、面会権限を意味しません》
続けて。
《鷹宮綾乃様との親族関係は、藤和CEOへの面会承認条件には該当しません》
「……」
ちょっと好きかもしれない。
