その言葉が聞こえた瞬間。
周囲の空気が、ほんの少し変わった。
会場の音楽も。
話し声も。
止まってはいない。
それでも。
近くにいた何人かが、こちらへ視線を向ける。
早紀子さんの顔色まで、わずかに変わった。
私も一瞬、言葉を失った。
十三歳の頃。
私は何度も、この言葉を聞いた。
遼河さんは蘭の許嫁になる。
いつか二人は結婚する。
だから、お姉様は近づいてはいけない。
早紀子さんまで同じことを言うのだから。
それが真実なのだと思い込み。
自分の気持ちを、自分で終わらせた。
あの頃の私は。
遼河さん本人へ確かめるなんて、考えることさえできなかった。
けれど今。
同じ言葉を目の前で聞いても。
昔のような痛みはなかった。
私はもう。
その話が事実ではないことを知っている。
そして何より。
その答えを。
今度は本人が、自分の言葉で返してくれる。
遼河さんが蘭をまっすぐ見た。
「そのような事実はありません」
はっきりと。
迷いもなく。
蘭の笑顔が固まった。
「……え?」
「以前にもお伝えしたはずです。その話を、私は一度も受け入れていません」
「でも……お母様が」
「私の両親も了承していません」
静かな声だった。
怒鳴りもしない。
責めもしない。
ただ。
一つずつ事実だけを置いていく。
だからこそ。
蘭には逃げ道がなかった。
「ですから」
遼河さんの声が、少し低くなる。
「今後、公の場で事実ではない関係を口にすることは、お控えください」
周囲の空気が、ほんの少し変わった。
会場の音楽も。
話し声も。
止まってはいない。
それでも。
近くにいた何人かが、こちらへ視線を向ける。
早紀子さんの顔色まで、わずかに変わった。
私も一瞬、言葉を失った。
十三歳の頃。
私は何度も、この言葉を聞いた。
遼河さんは蘭の許嫁になる。
いつか二人は結婚する。
だから、お姉様は近づいてはいけない。
早紀子さんまで同じことを言うのだから。
それが真実なのだと思い込み。
自分の気持ちを、自分で終わらせた。
あの頃の私は。
遼河さん本人へ確かめるなんて、考えることさえできなかった。
けれど今。
同じ言葉を目の前で聞いても。
昔のような痛みはなかった。
私はもう。
その話が事実ではないことを知っている。
そして何より。
その答えを。
今度は本人が、自分の言葉で返してくれる。
遼河さんが蘭をまっすぐ見た。
「そのような事実はありません」
はっきりと。
迷いもなく。
蘭の笑顔が固まった。
「……え?」
「以前にもお伝えしたはずです。その話を、私は一度も受け入れていません」
「でも……お母様が」
「私の両親も了承していません」
静かな声だった。
怒鳴りもしない。
責めもしない。
ただ。
一つずつ事実だけを置いていく。
だからこそ。
蘭には逃げ道がなかった。
「ですから」
遼河さんの声が、少し低くなる。
「今後、公の場で事実ではない関係を口にすることは、お控えください」
