『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

その言葉が聞こえた瞬間。

周囲の空気が、ほんの少し変わった。

会場の音楽も。

話し声も。

止まってはいない。

それでも。

近くにいた何人かが、こちらへ視線を向ける。

早紀子さんの顔色まで、わずかに変わった。

私も一瞬、言葉を失った。

十三歳の頃。

私は何度も、この言葉を聞いた。

遼河さんは蘭の許嫁になる。

いつか二人は結婚する。

だから、お姉様は近づいてはいけない。

早紀子さんまで同じことを言うのだから。

それが真実なのだと思い込み。

自分の気持ちを、自分で終わらせた。

あの頃の私は。

遼河さん本人へ確かめるなんて、考えることさえできなかった。

けれど今。

同じ言葉を目の前で聞いても。

昔のような痛みはなかった。

私はもう。

その話が事実ではないことを知っている。

そして何より。

その答えを。

今度は本人が、自分の言葉で返してくれる。

遼河さんが蘭をまっすぐ見た。

「そのような事実はありません」

はっきりと。

迷いもなく。

蘭の笑顔が固まった。

「……え?」

「以前にもお伝えしたはずです。その話を、私は一度も受け入れていません」

「でも……お母様が」

「私の両親も了承していません」

静かな声だった。

怒鳴りもしない。

責めもしない。

ただ。

一つずつ事実だけを置いていく。

だからこそ。

蘭には逃げ道がなかった。

「ですから」

遼河さんの声が、少し低くなる。

「今後、公の場で事実ではない関係を口にすることは、お控えください」