『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

――その数週間後。

藤和グループの創立記念パーティーが、都内のホテルで開催されることになった。

毎年行われる大規模な催しらしく、国内外のグループ企業だけではなく、取引先や関係企業からも多くの招待客が集まる。

KSサイエンスからも、役員や主要部署の責任者を中心に大勢が出席することになり。

当然、藤和CEOの専属秘書である私も同行することになった。

会場へ向かう前。

最後の予定確認をしていた私のところへ、ジュリアンがやってきた。

「Ayano.」

――綾乃。

「何?」

「作戦会議」

「その言い方、嫌な予感しかしない」

「失礼だな」

言いながら、本人は楽しそうだった。

「今日の招待客なんだけど、鷹宮関係も何社か入ってる」

手が止まった。

「……まさか」

「可能性はある」

名前を聞かなくても分かる。

早紀子さん。

蘭。

「嫌なんだけど」

「だろうね」

「帰っていい?」

「駄目」

即答。

「まだ会ってもないでしょう」

「会いたくないから言ってるの」

ジュリアンは笑いながら、英語へ切り替えた。

“Just speak English.”

――英語で話せばいい。

「……まだ、その手を使うの?」

“Of course.”

――もちろん。

「日本語、普通に話せるでしょう」

「彼女たちの前では、僕は日本語が分からない外国人だから」

「性格悪い」

「ありがとう」

「褒めてない」

これだけ。

でも、その意味は十分分かった。

昔からジュリアンは、早紀子さんと蘭の前では日本語を理解できないふりをしている。

相手が「どうせ分からない」と思っている方が、余計なことを口にする。

そのためのカードを、彼はまだ捨てていなかった。

そこへ遼河さんが通りかかった。

「何の話だ」

「今日、あの二人がいた場合の対応」

それだけで察したらしい。

「関わる必要はない」

「向こうから来たら?」

「離れろ」

「ジュリアンは英語で逃げるらしいけど」

「ああ。それでいい」

「遼河さんまで?」

「必要ならな」

本気らしい。

私はため息をついた。

その時は。

まさか本当に、その数時間後にこの作戦を使うことになるとは思ってもいなかった。