『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

お父様が無事カリフォルニアへ到着したあとには連絡をくれることになっていた。

そして、ジュリアンからも改めて謝られた。

「Sorry, Ayano.」

――ごめん、綾乃。

珍しく、本当に申し訳なさそうな顔だった。

「何が?」

「君に何も言えなかったこと」

ジュリアンも、ずっと知っていた。

お父様の病気も。

調査のことも。

少なくとも、私よりずっと多く。

以前の私なら、きっと腹が立ったと思う。

どうして私だけ知らなかったの。

どうしてみんなで隠したの。

そう責めたかもしれない。

けれど、あの日すべてを聞いてからは、不思議とそこまでの怒りは残っていなかった。

「……もういい」

「怒らないの?」

「言えなかったんでしょう?」

「うん」

「なら、仕方ない」

「本当に?」

「怒る気力まで使い切ったとも言う」

そう答えると、ジュリアンは苦笑した。

「それは申し訳ない」

「二回謝ったから、もう終わり」

「了解」

そんなやり取りを最後に。

お父様は完全に日本から姿を消した。

もちろん。

早紀子さんと蘭には、何も知らされていない。

二人へ伝えられたのは、

鷹宮グループの海外案件と商談が続くため、半年ほど日本を離れる。

それだけ。

病気。

入院。

手術。

カリフォルニア。

何一つ知らない。

それなのに、不思議なほど何の疑問も抱いていないらしい。

その話を聞いた時、私の口から出たのは、

「……気づかないものなの?」

それだけだった。

以前なら。

妻なのに。

娘なのに。

どうしてお父様の変化に気づかないのだろうと、腹を立てていたかもしれない。

でも、もう。

あの二人のことで、自分の感情を消耗したくなかった。

お父様は治療へ向かった。

私は私で、ここでやることがある。

それでいい。

そう思っていた。