『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

五年後――。

春の柔らかな陽射しが差し込む羽田空港へ、私は五年ぶりに帰ってきた。

到着ロビーへ足を踏み出した瞬間、行き交う人々の話し声も、足音も、耳に飛び込んでくる日本語の響きさえ、妙に懐かしく感じられる。

二十一歳を迎える年の春。

私は、お父様の命令によって、この国から逃げるように旅立った。

そして二十六歳になった今。

今度は、自分の意思で日本へ戻ってきた。

スーツケースを押しながら到着口を抜ける。

出迎えの人たちの向こうに、見覚えのある男性の姿を見つけ、自然と足が止まった。

隙なく整えられたスーツ。

背筋を伸ばした立ち姿。

五年という月日を経ても、その印象はほとんど変わっていない。

父・鷹宮宏輝に長年仕えている専属秘書――志水敦。

父のそばにいる人の中で、昔から私が心を許している数少ない一人だった。

私に気づいた志水さんが、ゆっくりと目元を緩める。

「お帰りなさいませ、綾乃お嬢様」

その声を聞いた瞬間。

胸の奥に、じわりと温かなものが広がった。

ああ。

本当に帰ってきたんだ。

「ただいま、志水さん」

五年ぶりに交わす挨拶なのに、不思議と昨日も会っていたような気がする。

志水さんは私を見つめると、どこか感慨深そうに微笑んだ。

「ご立派になられました」

「五年も経ったもの。少しくらいは成長していないと困るでしょう?」

「少しどころではございませんよ。旦那様がお会いになれば、さぞお喜びになるでしょう」

「お父様……」

その名前に、胸の奥がわずかに揺れた。

五年間、まったく連絡を取っていなかったわけではない。

けれど、お父様から届く言葉はいつも短かった。

元気にしているか。

勉強は順調か。

困っていることはないか。

それくらい。

鷹宮家が今どうなっているのか。

早紀子さんや蘭がどうしているのか。

そして――

五年前、なぜ私をあれほど急いでカリフォルニアへ行かせたのか。

その理由についても、結局一度も詳しく聞かされないままだった。

「お父様は?」

尋ねた瞬間。

志水さんの表情が、ほんのわずかに曇った。

けれど、それは一瞬だった。

すぐにいつもの穏やかな顔へ戻り、私が押していたスーツケースへ手を伸ばす。

「お車でお話しいたします。まずはこちらを」

「……うん」

今の顔。

見間違いではないと思う。

けれど、問いただすことはしなかった。

志水さんが今ここで何も言わないのなら、きっと理由がある。

五年前と同じだ。

この人も、お父様の意向を受けて動いているのだから。