『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

その声だけは。

病人のものとは思えないほど強かった。

「半年後だ」

「半年後……?」

「そこを目標にしている。私の術後の回復もある。それまでに最後の確認を終え、必要なものをすべて揃える」

何を。

誰と。

何に決着をつけるの。

疑問ばかりが増えていく。

「今から、その内容をお前へ話す」

お父様は、まっすぐ私を見た。

「驚くと思う」

少しだけ。

悲しそうに笑う。

「いや。もしかしたら、私を許せなくなるかもしれない」

「……」

「それでも聞いてほしい」

私は。

黙って頷いた。

ここまで来て。

もう。

聞かないという選択肢はなかった。

「ただ、その前に一つ整理しておく」

お父様の視線が。

私から遼河さんへ移る。

「私の側から、正式に事情を共有している人間は限られている」

ゆっくりと名前を挙げる。

「志水。藤和君。トーマス。真悠子。そしてジュリアン」

真悠子。

胸が小さく跳ねた。

「……お母様も?」

「ああ」

また。

知らなかった。

けれど。

今度は口を挟まなかった。

「ただし、全員が同じ内容を知っているわけではない」

お父様が続ける。

「私と直接動き、調査資料と証拠を整理してきたのは志水。そして法的な面を含めて動いてくれているのがジュリアンだ」

そこで。

遼河さんを見る。

「藤和君にも長く協力してもらっているが、私が意図的に伏せていた部分がある。だから先ほど本人も言ったように、彼もすべてを知っているわけではない」

隣を見る。

遼河さんは何も言わなかった。

ただ。

その横顔は固かった。

「トーマスと真悠子には、お前を守るために必要なことと、海外側で協力してもらうために必要な範囲を伝えてある」

「……じゃあ、お母様は」

「病気のことも知っている」

胸が痛んだ。

「二年前から?」

「ああ」

目を閉じた。

本当に。

私は何も知らなかった。

でも。

さっきまでのような怒りとは。

少し違っていた。

ここまで徹底して隠したのなら。

きっと。

それだけの理由がある。

そう思い始めていた。

「それから」

お父様が続けた。

「藤和君のお父上にも、協力をお願いするうえで必要な範囲は伝えてある」

「隆史さんにも……?」

「ああ。ただし、詳細な証拠や調査の全容までは話していない。藤和グループとして動いてもらう時に必要な部分だけだ」

そこまで聞いて。

やっと分かった。

これは。

単なる家族の問題ではない。

お父様と早紀子さんの夫婦喧嘩でも。

蘭との確執だけでもない。

鷹宮グループ。

藤和グループ。

トーマス。

真悠子。

ジュリアン。

これだけの人間を巻き込んで。

何年もの間。

秘密裏に動かなければならなかったこと。

「お父様」

私は。

目の前のパソコンへ視線を落とした。

「……ここに、何が入ってるの?」

お父様は。

しばらく答えなかった。

やがて。

志水さんへ視線を向ける。

「開いてくれ」

「承知いたしました」

志水さんがパソコンを操作する。

画面が明るくなり。

いくつものフォルダが並んだ。

会社名。

日付。

口座。

契約書。

資金移動。

聞いたことのない企業名。

そして。

その中に。

見慣れた名字があった。

――早紀子さんの実家の名前。

背筋が冷たくなる。

お父様の声が。

静かに病室へ落ちた。

「ここから先は――」

私は顔を上げた。

「鷹宮家の中で、この十数年、何が起きていたのか。その話だ」

胸が。

大きく鳴った。

「そして」

お父様の目が。

真っ直ぐ私を捉える。

「お前が六年近く前、日本を離れなければならなかった、本当の理由でもある」