『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

息が止まった。

病室の空気が変わった気がした。

お父様の病気。

六年近く前。

私がカリフォルニアへ行かされたこと。

早紀子さんにも蘭にも、帰国を知らされなかったこと。

これまで別々に見えていたものが。

一本の線で繋がり始める。

「成人式を境に、私はそれまで見過ごしてきたものを洗い直した。本格的に調べ始めたのは、そこからだ」

お父様の声が低くなる。

「早紀子と、その実家。そして鷹宮グループ内部で起きていることを、表に出ない形で調べ始めた」

言葉が出なかった。

お父様はノートパソコンへ視線を落とした。

「本当なら、一年か二年で片をつけるつもりだった。だが、思っていた以上に根が深かった」

証拠として使えるものを揃えようとすれば。

別のものが出てくる。

一つを追えば。

さらにその奥へ繋がっていく。

「中途半端な状態で動けば、逆にこちらが潰されかねなかった」

「……何の話をしてるの?」

自分の声なのに。

ひどく遠く感じた。

お父様は、すぐには答えなかった。

「それを、これから全部話す」

パソコンの黒い画面に。

私たち三人の姿が薄く映っている。

「二年前に癌が見つかった時も、もちろん治療を勧められた。私だって死にたかったわけじゃない」

一度。

苦しそうに息を吐く。

「ただ、あと少しだと思ってしまったんだ」

胸が締めつけられた。

「あと少しで証拠が揃う。あと少しで、お前へ返すべきものを全部取り戻せる。そこまでやってから手術を受ければいいと……勝手にそう思った」

「そんな……」

言葉にならない。

何をしているの。

そう怒鳴りたい。

命より大事なものなんてないでしょう。

そう言いたい。

でも。

お父様の次の言葉が。

それを止めた。

「綾乃。私は、お前から奪われたものを、そのままにして死ぬわけにはいかなかった」