――明かされる秘密――
「……とうとう、隠しきれなかったな」
弱々しくそう言ったあと。
お父様はしばらく、私の顔を見つめていた。
何から話せばいいのか迷っているようにも。
私がここにいることを確かめているようにも見えた。
やがて小さく息を吐くと。
申し訳なさそうに眉を下げた。
「すまない。心配をかけたな、綾乃」
その一言を聞いただけで、胸が詰まった。
心配をかけた。
そんな簡単な言葉で済ませないでほしい。
電話一本で、どれほど怖かったと思っているの。
どうして何も言ってくれなかったの。
聞きたいことも。
言いたいことも山ほどある。
それなのに。
目の前にいるお父様があまりにも弱って見えて。
責める言葉を口にすることができなかった。
「藤和君も、忙しいところ悪かったね」
「いえ」
遼河さんは静かに首を振った。
「綾乃のこともありますから」
お父様の目が、一瞬だけ柔らかくなる。
「……そうか」
その短いやり取りにも。
やはり私の知らない何かがあるような気がして、胸の奥がざわついた。
「まあ、二人とも座ってくれ。立ったまま聞くような話じゃない」
私はベッドのそばの椅子へ腰を下ろし。
遼河さんも、その隣に座った。
近い。
けれど今は。
その距離がありがたかった。
「志水」
「はい」
「あれを」
お父様がそう告げると。
志水さんは部屋の隅に置いてあったビジネスバッグから、ノートパソコンを取り出した。
ベッドの上へオーバーテーブルを寄せ。
その上にパソコンを置く。
それから、電動ベッドの背上げをゆっくり調整していく。
身体が起こされるにつれて。
お父様の顔が、わずかに歪んだ。
ほんの一瞬だった。
すぐに何でもないような顔へ戻ったけれど。
私は見逃さなかった。
「旦那様、この角度でよろしいでしょうか」
「ああ。ありがとう」
志水さんが枕の位置を整える。
その手つきが。
ひどく慣れていた。
そのことにも胸が痛んだ。
今日初めて、こうしているわけではない。
私が知らなかっただけで。
きっと志水さんは、何度もこうして父を支えてきたのだ。
お父様はパソコンへ一度視線を落とし。
それから私へ向き直った。
「とうとう、話す時が来た」
声は弱い。
それでも。
その目だけは昔と変わらなかった。
鷹宮グループを率いる人間の目だった。
「いや……本当を言えば、もう隠しきれないところまで来ていたことは、私自身分かっていた」
その言葉に。
胸の奥が冷たくなる。
お父様は少し間を置いた。
「まず、一番先にお前へ話さなければならないことがある」
何となく。
分かってしまった。
聞きたくない。
けれど。
目を逸らしてはいけない。
膝の上で両手を握る。
お父様は、ゆっくり息を吸った。
「私の病気は――胃癌だ」
頭の中が。
一瞬、真っ白になった。
癌。
聞き慣れているはずの言葉なのに。
それが自分の父親へ向けられた瞬間。
まるで知らない言葉のように聞こえた。
「……胃癌?」
ようやく絞り出した私の声に。
お父様は静かに頷いた。
「二年前に診断された。今はステージIIIだ」
「……とうとう、隠しきれなかったな」
弱々しくそう言ったあと。
お父様はしばらく、私の顔を見つめていた。
何から話せばいいのか迷っているようにも。
私がここにいることを確かめているようにも見えた。
やがて小さく息を吐くと。
申し訳なさそうに眉を下げた。
「すまない。心配をかけたな、綾乃」
その一言を聞いただけで、胸が詰まった。
心配をかけた。
そんな簡単な言葉で済ませないでほしい。
電話一本で、どれほど怖かったと思っているの。
どうして何も言ってくれなかったの。
聞きたいことも。
言いたいことも山ほどある。
それなのに。
目の前にいるお父様があまりにも弱って見えて。
責める言葉を口にすることができなかった。
「藤和君も、忙しいところ悪かったね」
「いえ」
遼河さんは静かに首を振った。
「綾乃のこともありますから」
お父様の目が、一瞬だけ柔らかくなる。
「……そうか」
その短いやり取りにも。
やはり私の知らない何かがあるような気がして、胸の奥がざわついた。
「まあ、二人とも座ってくれ。立ったまま聞くような話じゃない」
私はベッドのそばの椅子へ腰を下ろし。
遼河さんも、その隣に座った。
近い。
けれど今は。
その距離がありがたかった。
「志水」
「はい」
「あれを」
お父様がそう告げると。
志水さんは部屋の隅に置いてあったビジネスバッグから、ノートパソコンを取り出した。
ベッドの上へオーバーテーブルを寄せ。
その上にパソコンを置く。
それから、電動ベッドの背上げをゆっくり調整していく。
身体が起こされるにつれて。
お父様の顔が、わずかに歪んだ。
ほんの一瞬だった。
すぐに何でもないような顔へ戻ったけれど。
私は見逃さなかった。
「旦那様、この角度でよろしいでしょうか」
「ああ。ありがとう」
志水さんが枕の位置を整える。
その手つきが。
ひどく慣れていた。
そのことにも胸が痛んだ。
今日初めて、こうしているわけではない。
私が知らなかっただけで。
きっと志水さんは、何度もこうして父を支えてきたのだ。
お父様はパソコンへ一度視線を落とし。
それから私へ向き直った。
「とうとう、話す時が来た」
声は弱い。
それでも。
その目だけは昔と変わらなかった。
鷹宮グループを率いる人間の目だった。
「いや……本当を言えば、もう隠しきれないところまで来ていたことは、私自身分かっていた」
その言葉に。
胸の奥が冷たくなる。
お父様は少し間を置いた。
「まず、一番先にお前へ話さなければならないことがある」
何となく。
分かってしまった。
聞きたくない。
けれど。
目を逸らしてはいけない。
膝の上で両手を握る。
お父様は、ゆっくり息を吸った。
「私の病気は――胃癌だ」
頭の中が。
一瞬、真っ白になった。
癌。
聞き慣れているはずの言葉なのに。
それが自分の父親へ向けられた瞬間。
まるで知らない言葉のように聞こえた。
「……胃癌?」
ようやく絞り出した私の声に。
お父様は静かに頷いた。
「二年前に診断された。今はステージIIIだ」
