『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

――明かされる秘密――

「……とうとう、隠しきれなかったな」

弱々しくそう言ったあと。

お父様はしばらく、私の顔を見つめていた。

何から話せばいいのか迷っているようにも。

私がここにいることを確かめているようにも見えた。

やがて小さく息を吐くと。

申し訳なさそうに眉を下げた。

「すまない。心配をかけたな、綾乃」

その一言を聞いただけで、胸が詰まった。

心配をかけた。

そんな簡単な言葉で済ませないでほしい。

電話一本で、どれほど怖かったと思っているの。

どうして何も言ってくれなかったの。

聞きたいことも。

言いたいことも山ほどある。

それなのに。

目の前にいるお父様があまりにも弱って見えて。

責める言葉を口にすることができなかった。

「藤和君も、忙しいところ悪かったね」

「いえ」

遼河さんは静かに首を振った。

「綾乃のこともありますから」

お父様の目が、一瞬だけ柔らかくなる。

「……そうか」

その短いやり取りにも。

やはり私の知らない何かがあるような気がして、胸の奥がざわついた。

「まあ、二人とも座ってくれ。立ったまま聞くような話じゃない」

私はベッドのそばの椅子へ腰を下ろし。

遼河さんも、その隣に座った。

近い。

けれど今は。

その距離がありがたかった。

「志水」

「はい」

「あれを」

お父様がそう告げると。

志水さんは部屋の隅に置いてあったビジネスバッグから、ノートパソコンを取り出した。

ベッドの上へオーバーテーブルを寄せ。

その上にパソコンを置く。

それから、電動ベッドの背上げをゆっくり調整していく。

身体が起こされるにつれて。

お父様の顔が、わずかに歪んだ。

ほんの一瞬だった。

すぐに何でもないような顔へ戻ったけれど。

私は見逃さなかった。

「旦那様、この角度でよろしいでしょうか」

「ああ。ありがとう」

志水さんが枕の位置を整える。

その手つきが。

ひどく慣れていた。

そのことにも胸が痛んだ。

今日初めて、こうしているわけではない。

私が知らなかっただけで。

きっと志水さんは、何度もこうして父を支えてきたのだ。

お父様はパソコンへ一度視線を落とし。

それから私へ向き直った。

「とうとう、話す時が来た」

声は弱い。

それでも。

その目だけは昔と変わらなかった。

鷹宮グループを率いる人間の目だった。

「いや……本当を言えば、もう隠しきれないところまで来ていたことは、私自身分かっていた」

その言葉に。

胸の奥が冷たくなる。

お父様は少し間を置いた。

「まず、一番先にお前へ話さなければならないことがある」

何となく。

分かってしまった。

聞きたくない。

けれど。

目を逸らしてはいけない。

膝の上で両手を握る。

お父様は、ゆっくり息を吸った。

「私の病気は――胃癌だ」

頭の中が。

一瞬、真っ白になった。

癌。

聞き慣れているはずの言葉なのに。

それが自分の父親へ向けられた瞬間。

まるで知らない言葉のように聞こえた。

「……胃癌?」

ようやく絞り出した私の声に。

お父様は静かに頷いた。

「二年前に診断された。今はステージIIIだ」