『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

その言葉を聞いた瞬間。

不思議なくらい怖くなった。

ずっと知りたかった。

何も知らされないことが苦しかった。

なのに。

本当にすべてを知らされる時が来たと思うと、その先に何が待っているのか分からなくて、足がすくむ。

一度知ってしまえば。

もう、知らなかった頃には戻れない。

その時。

背中へ、そっと温かな手が触れた。

遼河さんだった。

強引に押すわけでもなく。

急かすわけでもない。

ただ、そこにいる。

一人ではない。

そう伝えるように置かれた手に、張り詰めていたものがわずかに緩む。

「行くぞ」

静かな声だった。

私は目を閉じ、一度だけ大きく息を吸った。

怖い。

それでも。

逃げるわけにはいかない。

「……うん」

志水さんが、静かに病室の扉を開けた。

目に入ったのは。

大きな窓から差し込む柔らかな午後の光。

白い壁。

点滴スタンド。

規則正しく小さな音を刻む医療機器。

その奥。

白いシーツの上に、お父様がいた。

その姿を見た瞬間。

私は立ち尽くした。

鷹宮グループの代表として、いつも隙のないスーツ姿で人の前に立ち。

子どもの頃から、誰よりも大きな存在に見えていた父。

その人が今は病衣を着て。

腕には点滴を繋がれ。

記憶の中よりも、ずっと痩せた顔で横たわっている。

一年前に羽田で見た時よりも。

さらに頬が落ちていた。

ああ。

本当に病気だったんだ。

そんな当たり前のことが。

ようやく現実として胸に落ちた。

問い詰めたいことは山ほどあったはずなのに。

その顔を見た瞬間。

全部どうでもよくなった。

生きている。

ちゃんと呼吸をしている。

それだけで。

泣きそうになるほど嬉しかった。

「……お父様」

ようやく出た声は、自分でも驚くほど震えていた。

閉じていた瞼が、ゆっくりと動く。

お父様が目を開けた。

最初は焦点が合わないように見えたその目が。

やがて私を捉え。

それから私の隣に立つ遼河さんへ、ゆっくり移っていく。

そして。

ほんの少しだけ。

困ったように笑った。

「……とうとう、隠しきれなかったな」

聞き慣れているはずの父の声は。

これまで聞いたことがないほど弱かった。

その一言に。

胸が締めつけられる。

怒りもあった。

悲しみもあった。

どうして、という思いも消えてはいない。

けれど同時に。

もしかしたら、この人も。

この人なりに何かを守ろうとしていたのではないか。

五年前まで。

私は父に見捨てられた側の気持ちばかりを抱えてきた。

けれど。

その向こう側にあったものを。

私はまだ、何ひとつ知らないのかもしれない。

そんな思いが。

初めて胸をよぎった。

ずっと父と私の間に積み重なっていた。

何も知らされないという壁が。

ようやく。

ほんの少しだけ。

崩れ始めた気がした。