その言葉を聞いた瞬間。
不思議なくらい怖くなった。
ずっと知りたかった。
何も知らされないことが苦しかった。
なのに。
本当にすべてを知らされる時が来たと思うと、その先に何が待っているのか分からなくて、足がすくむ。
一度知ってしまえば。
もう、知らなかった頃には戻れない。
その時。
背中へ、そっと温かな手が触れた。
遼河さんだった。
強引に押すわけでもなく。
急かすわけでもない。
ただ、そこにいる。
一人ではない。
そう伝えるように置かれた手に、張り詰めていたものがわずかに緩む。
「行くぞ」
静かな声だった。
私は目を閉じ、一度だけ大きく息を吸った。
怖い。
それでも。
逃げるわけにはいかない。
「……うん」
志水さんが、静かに病室の扉を開けた。
目に入ったのは。
大きな窓から差し込む柔らかな午後の光。
白い壁。
点滴スタンド。
規則正しく小さな音を刻む医療機器。
その奥。
白いシーツの上に、お父様がいた。
その姿を見た瞬間。
私は立ち尽くした。
鷹宮グループの代表として、いつも隙のないスーツ姿で人の前に立ち。
子どもの頃から、誰よりも大きな存在に見えていた父。
その人が今は病衣を着て。
腕には点滴を繋がれ。
記憶の中よりも、ずっと痩せた顔で横たわっている。
一年前に羽田で見た時よりも。
さらに頬が落ちていた。
ああ。
本当に病気だったんだ。
そんな当たり前のことが。
ようやく現実として胸に落ちた。
問い詰めたいことは山ほどあったはずなのに。
その顔を見た瞬間。
全部どうでもよくなった。
生きている。
ちゃんと呼吸をしている。
それだけで。
泣きそうになるほど嬉しかった。
「……お父様」
ようやく出た声は、自分でも驚くほど震えていた。
閉じていた瞼が、ゆっくりと動く。
お父様が目を開けた。
最初は焦点が合わないように見えたその目が。
やがて私を捉え。
それから私の隣に立つ遼河さんへ、ゆっくり移っていく。
そして。
ほんの少しだけ。
困ったように笑った。
「……とうとう、隠しきれなかったな」
聞き慣れているはずの父の声は。
これまで聞いたことがないほど弱かった。
その一言に。
胸が締めつけられる。
怒りもあった。
悲しみもあった。
どうして、という思いも消えてはいない。
けれど同時に。
もしかしたら、この人も。
この人なりに何かを守ろうとしていたのではないか。
五年前まで。
私は父に見捨てられた側の気持ちばかりを抱えてきた。
けれど。
その向こう側にあったものを。
私はまだ、何ひとつ知らないのかもしれない。
そんな思いが。
初めて胸をよぎった。
ずっと父と私の間に積み重なっていた。
何も知らされないという壁が。
ようやく。
ほんの少しだけ。
崩れ始めた気がした。
不思議なくらい怖くなった。
ずっと知りたかった。
何も知らされないことが苦しかった。
なのに。
本当にすべてを知らされる時が来たと思うと、その先に何が待っているのか分からなくて、足がすくむ。
一度知ってしまえば。
もう、知らなかった頃には戻れない。
その時。
背中へ、そっと温かな手が触れた。
遼河さんだった。
強引に押すわけでもなく。
急かすわけでもない。
ただ、そこにいる。
一人ではない。
そう伝えるように置かれた手に、張り詰めていたものがわずかに緩む。
「行くぞ」
静かな声だった。
私は目を閉じ、一度だけ大きく息を吸った。
怖い。
それでも。
逃げるわけにはいかない。
「……うん」
志水さんが、静かに病室の扉を開けた。
目に入ったのは。
大きな窓から差し込む柔らかな午後の光。
白い壁。
点滴スタンド。
規則正しく小さな音を刻む医療機器。
その奥。
白いシーツの上に、お父様がいた。
その姿を見た瞬間。
私は立ち尽くした。
鷹宮グループの代表として、いつも隙のないスーツ姿で人の前に立ち。
子どもの頃から、誰よりも大きな存在に見えていた父。
その人が今は病衣を着て。
腕には点滴を繋がれ。
記憶の中よりも、ずっと痩せた顔で横たわっている。
一年前に羽田で見た時よりも。
さらに頬が落ちていた。
ああ。
本当に病気だったんだ。
そんな当たり前のことが。
ようやく現実として胸に落ちた。
問い詰めたいことは山ほどあったはずなのに。
その顔を見た瞬間。
全部どうでもよくなった。
生きている。
ちゃんと呼吸をしている。
それだけで。
泣きそうになるほど嬉しかった。
「……お父様」
ようやく出た声は、自分でも驚くほど震えていた。
閉じていた瞼が、ゆっくりと動く。
お父様が目を開けた。
最初は焦点が合わないように見えたその目が。
やがて私を捉え。
それから私の隣に立つ遼河さんへ、ゆっくり移っていく。
そして。
ほんの少しだけ。
困ったように笑った。
「……とうとう、隠しきれなかったな」
聞き慣れているはずの父の声は。
これまで聞いたことがないほど弱かった。
その一言に。
胸が締めつけられる。
怒りもあった。
悲しみもあった。
どうして、という思いも消えてはいない。
けれど同時に。
もしかしたら、この人も。
この人なりに何かを守ろうとしていたのではないか。
五年前まで。
私は父に見捨てられた側の気持ちばかりを抱えてきた。
けれど。
その向こう側にあったものを。
私はまだ、何ひとつ知らないのかもしれない。
そんな思いが。
初めて胸をよぎった。
ずっと父と私の間に積み重なっていた。
何も知らされないという壁が。
ようやく。
ほんの少しだけ。
崩れ始めた気がした。
