「お父様……」
やっぱり、おかしい。
これは、ただの海外留学ではない。
どうして突然、私を日本から離すのか。
どうして早紀子さんたちへ知られてはいけないのか。
成人式の日から、お父様は何をしていたのか。
聞きたいことはいくつもあった。
「どうして――」
「綾乃」
静かに名前を呼ばれ、言葉を止める。
お父様はしばらく私を見つめていた。
いつもなら、何を考えているのかほとんど分からない人だった。
けれど、その時だけは違った。
ほんの一瞬。
お父様が苦しそうに目を伏せた。
「いずれ、すべてが分かる時が来る」
その声は、鷹宮グループの代表としてではなく――
父親としてのものに聞こえた。
「それまでは何も聞かず、我慢してくれ」
私は膝の上で両手を握りしめた。
なぜなのかは分からない。
けれど、お父様がここまで言うのなら、きっと何か理由がある。
「……分かりました」
それ以上、何も聞かなかった。
いや。
あの表情を見てしまったら、聞けなかった。
