『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

KSサイエンスへ入社してから、まもなく一年が経とうとしていた。

振り返れば、あっという間だった。

最初の頃は、遼河さんに呼ばれるたびに身構えていた気がする。

昼食の手配。

コーヒー。

会食先の選定。

取引先への手土産。

果てはネクタイまで。

「専属秘書って、いったいどこまでが仕事なの?」

そう呟いた回数など、もう数える気にもならない。

けれど、一年近くも同じ人のそばで働いていると、不思議なもので。

遼河さんが何を言おうとしているのか。

どの会議が長引きそうなのか。

どの案件なら、先回りして資料を準備しておいた方がいいのか。

最近では、眉間に少し皺が寄っただけで、

――あ、この案件、何かあったな。

そんなことまで分かるようになっていた。

もちろん、相変わらず強引なところはある。

私の独り言を拾う耳も、相変わらず無駄にいい。

過保護については――改善どころか、一年前より悪化している気さえする。

それでも。

仕事に関してだけ言えば、私たちは驚くほど息の合う組み合わせになっていた。

遼河さんが視線を向ければ、必要な資料が分かる。

私が予定表の一箇所を指差せば、何を変えたいのか彼には伝わる。

言葉にしなくても通じることが、少しずつ増えていた。

CEOと専属秘書。

それが今の私たちの関係。

少なくとも私は、そう思うことにしていた。

十三年前に閉じ込めた気持ちが、完全に消えているわけではない。

それどころか。

知らなかった遼河さんを知るほどに、自分の中にあるものをごまかすのが難しくなっていることも分かっていた。

それでも。

今すぐ答えを出さなくてもいい。

急がなくていい。

そんなふうに思えるくらいには、日本へ戻ってからの日々は穏やかだった。

――だからこそ。

その一本の電話が。

それまで当たり前になっていた日常を、一瞬で壊した。