成人式を終えた、その年の春。
私は突然、鷹宮グループ本社にある社長室へ呼び出された。
重厚な扉を開けると、お父様は執務机の向こう側に座っていた。
「失礼します」
「ああ。入れ」
いつもと変わらない声。
けれど、向かいのソファへ座るよう促された時から、どこか空気が違うように感じていた。
お父様は手にしていた書類を閉じると、しばらく黙って私を見つめた。
「綾乃」
「はい」
「これから話すことについて、理由は何も聞くな」
思わず瞬きをする。
「……はい」
何の話なのか、まったく想像がつかない。
そんな私へ、お父様は静かに告げた。
「日本を離れなさい」
「……え?」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
「カリフォルニアへ行ってもらう」
「カリフォルニア……?」
「ああ」
あまりにも突然だった。
「どうして急に……」
「真悠子のところへ行きなさい」
息をのんだ。
真悠子。
私を産んだ、実の母。
その名前をお父様の口から聞いたのは、随分久しぶりだった。
「お母様のところへ……?」
「そうだ」
戸惑う私を置いて、お父様は淡々と話を続ける。
「すべての手筈は整えてある。表向きは海外留学ということにする」
「留学……」
「三月二日の便で発ちなさい」
思わず目を見開いた。
「三月二日って……」
ほとんど時間がない。
荷造りどころか、心の準備さえできていない。
「親しい友人にだけは伝えても構わない」
そこで一度、お父様は言葉を切った。
先ほどまでより、わずかに声が低くなる。
「ただし、詳しい行き先は言うな。向こうで誰と暮らすのかもだ」
胸の奥がざわついた。
「特に、早紀子と蘭には絶対に知られるな」
私は突然、鷹宮グループ本社にある社長室へ呼び出された。
重厚な扉を開けると、お父様は執務机の向こう側に座っていた。
「失礼します」
「ああ。入れ」
いつもと変わらない声。
けれど、向かいのソファへ座るよう促された時から、どこか空気が違うように感じていた。
お父様は手にしていた書類を閉じると、しばらく黙って私を見つめた。
「綾乃」
「はい」
「これから話すことについて、理由は何も聞くな」
思わず瞬きをする。
「……はい」
何の話なのか、まったく想像がつかない。
そんな私へ、お父様は静かに告げた。
「日本を離れなさい」
「……え?」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
「カリフォルニアへ行ってもらう」
「カリフォルニア……?」
「ああ」
あまりにも突然だった。
「どうして急に……」
「真悠子のところへ行きなさい」
息をのんだ。
真悠子。
私を産んだ、実の母。
その名前をお父様の口から聞いたのは、随分久しぶりだった。
「お母様のところへ……?」
「そうだ」
戸惑う私を置いて、お父様は淡々と話を続ける。
「すべての手筈は整えてある。表向きは海外留学ということにする」
「留学……」
「三月二日の便で発ちなさい」
思わず目を見開いた。
「三月二日って……」
ほとんど時間がない。
荷造りどころか、心の準備さえできていない。
「親しい友人にだけは伝えても構わない」
そこで一度、お父様は言葉を切った。
先ほどまでより、わずかに声が低くなる。
「ただし、詳しい行き先は言うな。向こうで誰と暮らすのかもだ」
胸の奥がざわついた。
「特に、早紀子と蘭には絶対に知られるな」
