『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

成人式を終えた、その年の春。

私は突然、鷹宮グループ本社にある社長室へ呼び出された。

重厚な扉を開けると、お父様は執務机の向こう側に座っていた。

「失礼します」

「ああ。入れ」

いつもと変わらない声。

けれど、向かいのソファへ座るよう促された時から、どこか空気が違うように感じていた。

お父様は手にしていた書類を閉じると、しばらく黙って私を見つめた。

「綾乃」

「はい」

「これから話すことについて、理由は何も聞くな」

思わず瞬きをする。

「……はい」

何の話なのか、まったく想像がつかない。

そんな私へ、お父様は静かに告げた。

「日本を離れなさい」

「……え?」

一瞬、言葉の意味が分からなかった。

「カリフォルニアへ行ってもらう」

「カリフォルニア……?」

「ああ」

あまりにも突然だった。

「どうして急に……」

「真悠子のところへ行きなさい」

息をのんだ。

真悠子。

私を産んだ、実の母。

その名前をお父様の口から聞いたのは、随分久しぶりだった。

「お母様のところへ……?」

「そうだ」

戸惑う私を置いて、お父様は淡々と話を続ける。

「すべての手筈は整えてある。表向きは海外留学ということにする」

「留学……」

「三月二日の便で発ちなさい」

思わず目を見開いた。

「三月二日って……」

ほとんど時間がない。

荷造りどころか、心の準備さえできていない。

「親しい友人にだけは伝えても構わない」

そこで一度、お父様は言葉を切った。

先ほどまでより、わずかに声が低くなる。

「ただし、詳しい行き先は言うな。向こうで誰と暮らすのかもだ」

胸の奥がざわついた。

「特に、早紀子と蘭には絶対に知られるな」