『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

入社手続きは順調に進んだ。

必要書類の確認。

社員証用の写真撮影。

緊急連絡先の登録。

就業規則や機密保持に関する説明。

その後、情報管理システム部へ移動し、真崎さんから業務用スマートフォンとノート端末を受け取った。

「鷹宮さんのアクセス権限は、通常のCEO秘書より広く設定されています」

真崎さんが淡々と告げる。

「通常より?」

「海外契約、M&A、役員会関連の共有領域まで閲覧可能です。ただし、最上位機密へのアクセスには藤和CEOかマクレガー副社長の承認が必要です」

「承知しました」

「生体認証を登録します」

指紋。

顔認証。

二段階認証。

次々と設定が進む。

最後に真崎さんが端末を私へ差し出した。

「分からないことがあれば連絡してください」

「ありがとうございます」

「二十四時間対応ではありません」

「……はい?」

「藤和CEOは時間を気にせず連絡してくるので、念のため」

真顔。

冗談なのか本気なのか分からない。

「真崎」

背後から低い声がした。

振り返る。

城之内さんだった。

「新人へ余計な先入観を与えないでください」

「事実です」

「事実でもです」

「なるほど」

真崎さんは納得したのかしていないのか分からない顔で、またタブレットへ視線を戻した。

……この会社。

昨日思ったより、面白い人が多いかもしれない。

「それでは鷹宮さん。CEOフロアへご案内します」

「よろしくお願いいたします」

城之内さんと並んで廊下を歩く。

途中。

彼が手元のタブレットを操作しながら口を開いた。

「今日から予定を前倒ししたと伺いました」

「私も昨日、初めて聞きました」

「やはり」

「やはり?」

城之内さんがわずかに苦笑した。

「藤和CEOは仕事に関しては非常に合理的な方ですが、時折、一度決めると周囲が止めても聞かないことがあります」

「それは存じています」

即答すると。

城之内さんが私を見た。

「……幼馴染でしたね」

「はい」

「では、私よりよくご存じかもしれません」

いえ。

昔より悪化しています。

もちろん、口には出さない。

CEOフロアは、それまでの執務フロアより静かだった。

秘書課のデスクエリア。

複数の応接室と会議室。

その一番奥に、CEO執務室がある。

城之内さんが扉をノックした。

「藤和CEO。鷹宮さんをお連れしました」

「入れ」

中へ入る。

広い。

けれど、昨日の会議室とは違い、驚くほど無駄がない。

大きなデスク。

壁一面のモニター。

応接セット。

窓の向こうには、東京の街並みが広がっている。

装飾らしいものは、ほとんどなかった。

机の上にも余計な物はない。

性格が出てる。

「座れ」

遼河さんが、デスク前の椅子を示した。

城之内さんも隣へ座る。

「まず、本日の予定をご説明します」

城之内さんから渡された端末には、朝から夜まで予定が隙なく並んでいた。

十時。

経営会議。

十一時三十分。

海外拠点とのオンラインミーティング。

十三時。

国内企業との打ち合わせ。

十四時三十分。

北米案件の事前協議。

十六時。

開発部門レビュー。

十八時。

取引先との会食。

「……詰まってますね」

思わず言う。

遼河さんがこちらを見る。

「普通だ」

「これが?」

「多い日はもっとある」

どういう生活してるの。