翌朝。
朝食を前にしているのに、私はさっきから携帯ばかり見ていた。
画面には、昨日の午後から遼河さんに送られてきた連絡が並んでいる。
『もう着いたか?』
『まだ運転中か?』
『綾乃?』
『何かあったのか?』
その下には、着信履歴まで。
会社を出たあと、そのまま帰宅するのも何となく癪で、少し寄り道をした。
久しぶりの東京を見て回り、帰宅が少し遅くなっただけ。
それなのに、携帯をバッグへ入れたままにしていたせいで、気づいた時にはこの有り様だった。
「……怖いんだけど」
思わず呟く。
結局、自宅へ着いてすぐ、
『無事に到着しました。ご連絡が遅くなり申し訳ありません』
と送った。
すると、一分もしないうちに。
『遅い』
返ってきたのは、それだけ。
いや。
何が。
到着報告に締切時間なんて聞いてない。
しかも、私はショートメッセージを普段ほとんど使わない。
この調子で何度も電話とメッセージを送られる方が困るので、仕方なくLINEのIDを送った。
追加通知が来たのは、数秒後。
早すぎる。
表示された名前は、藤和遼河。
そして、その直後。
『明日、八時二十分。地下三階』
念押しまで届いた。
「分かってるって……」
誰にともなく返し、携帯を伏せる。
十三年間まともに連絡すら取っていなかった幼馴染と。
再会したその日に連絡先を交換して。
その日のうちにLINEまで繋がっている。
人生って、本当に分からない。
「綾乃お嬢様。お時間、大丈夫でございますか?」
キッチンから佐知子さんの声が飛んできた。
「大丈夫。今日は昨日みたいに忘れてない」
「それなら安心いたしました」
少し笑われた気がする。
私は残っていた朝食を口へ運んだ。
本来なら。
今日は入社手続きとシステム登録だけ。
正式な勤務開始は明日からの予定だった。
それなのに。
『明日からでいい』
遼河さんの一言で、あっさり前倒しされた。
「いくら何でも急すぎるのよ……」
しかも。
昨日は、それだけではなかった。
『俺は蘭さんとの婚約など、一度も受け入れていない』
何度思い出しても。
胸の奥が落ち着かない。
十三歳の私は。
遼河さんを好きになってはいけないと思った。
蘭の許嫁になる人だから。
妹の相手になる人だから。
だから。
自分で自分の気持ちに蓋をした。
それが。
最初から全部、存在しなかった話だったなんて。
「……今さらよね」
十三年分の思い込みを。
一晩寝たくらいで整理できるわけがない。
でも。
今日は、その答えを探しに行く日じゃない。
「仕事は仕事」
自分へ言い聞かせる。
「私は秘書。向こうはCEO」
それだけ。
――それだけで済めばいいけど。
最後の一言は、口に出さなかった。
食事を終え、身支度を整える。
今日は淡いベージュのブラウスに、チャコールグレーのパンツスーツ。
髪をまとめ、鏡の前で一度だけ深呼吸した。
昨日は驚かされた。
今日は、そうはいかない。
朝食を前にしているのに、私はさっきから携帯ばかり見ていた。
画面には、昨日の午後から遼河さんに送られてきた連絡が並んでいる。
『もう着いたか?』
『まだ運転中か?』
『綾乃?』
『何かあったのか?』
その下には、着信履歴まで。
会社を出たあと、そのまま帰宅するのも何となく癪で、少し寄り道をした。
久しぶりの東京を見て回り、帰宅が少し遅くなっただけ。
それなのに、携帯をバッグへ入れたままにしていたせいで、気づいた時にはこの有り様だった。
「……怖いんだけど」
思わず呟く。
結局、自宅へ着いてすぐ、
『無事に到着しました。ご連絡が遅くなり申し訳ありません』
と送った。
すると、一分もしないうちに。
『遅い』
返ってきたのは、それだけ。
いや。
何が。
到着報告に締切時間なんて聞いてない。
しかも、私はショートメッセージを普段ほとんど使わない。
この調子で何度も電話とメッセージを送られる方が困るので、仕方なくLINEのIDを送った。
追加通知が来たのは、数秒後。
早すぎる。
表示された名前は、藤和遼河。
そして、その直後。
『明日、八時二十分。地下三階』
念押しまで届いた。
「分かってるって……」
誰にともなく返し、携帯を伏せる。
十三年間まともに連絡すら取っていなかった幼馴染と。
再会したその日に連絡先を交換して。
その日のうちにLINEまで繋がっている。
人生って、本当に分からない。
「綾乃お嬢様。お時間、大丈夫でございますか?」
キッチンから佐知子さんの声が飛んできた。
「大丈夫。今日は昨日みたいに忘れてない」
「それなら安心いたしました」
少し笑われた気がする。
私は残っていた朝食を口へ運んだ。
本来なら。
今日は入社手続きとシステム登録だけ。
正式な勤務開始は明日からの予定だった。
それなのに。
『明日からでいい』
遼河さんの一言で、あっさり前倒しされた。
「いくら何でも急すぎるのよ……」
しかも。
昨日は、それだけではなかった。
『俺は蘭さんとの婚約など、一度も受け入れていない』
何度思い出しても。
胸の奥が落ち着かない。
十三歳の私は。
遼河さんを好きになってはいけないと思った。
蘭の許嫁になる人だから。
妹の相手になる人だから。
だから。
自分で自分の気持ちに蓋をした。
それが。
最初から全部、存在しなかった話だったなんて。
「……今さらよね」
十三年分の思い込みを。
一晩寝たくらいで整理できるわけがない。
でも。
今日は、その答えを探しに行く日じゃない。
「仕事は仕事」
自分へ言い聞かせる。
「私は秘書。向こうはCEO」
それだけ。
――それだけで済めばいいけど。
最後の一言は、口に出さなかった。
食事を終え、身支度を整える。
今日は淡いベージュのブラウスに、チャコールグレーのパンツスーツ。
髪をまとめ、鏡の前で一度だけ深呼吸した。
昨日は驚かされた。
今日は、そうはいかない。
