『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

あれだけ偉そうに。

明日八時半。

そう言っておきながら。

肝心なことが一つも分からない。

「詰めが甘すぎない?」

世界的企業のCEOが。

そんな初歩的なことを忘れる?

……いや。

待って。

仕事では完璧だと言われている人が?

まさか。

「狙ってる?」

私から連絡させるために。

さっき半ば強引に交換した、個人の連絡先。

自宅へ着いたら連絡しろ。

そのうえ今度は、明日の出勤方法まで確認しなければならない。

見事に。

連絡する理由が増えている。

「そこまでする? マジで面倒くさい」

本音が漏れた。

でも。

明日の朝、駐車場で立ち往生する方がもっと困る。

運転中の携帯には触れず、車載ディスプレイの音声操作を起動した。

「藤和遼河に電話」

『藤和遼河へ発信します』

車内に呼び出し音が流れる。

一度。

二度。

三度目が鳴る前に。

『どうした』

出た。

早っ。

まるで私が連絡してくるのを待っていたみたい。

「運転中ですので、ハンズフリーから失礼します」

『ああ』

「明日の出勤について確認があります」

『何だ』

「何だ、ではありません」

思わず声が低くなる。

「八時半に来いと仰いましたが、どこへ行けばいいんですか?」

一瞬。

電話の向こうが静かになった。

「社員証も入館証もありません。車をどこへ停めればいいのかも、どの入り口から入ればいいのかも聞いてません」

『そうだったな』

何、その反応。

本当に忘れていた人の声には聞こえない。

「もしかして、わざと説明しませんでした?」

『何のために』

「私から連絡させるためです」

『随分と自意識過剰だな』

「では、ただの説明不足ですか? 世界的企業のCEOともあろう方が?」

電話の向こうで。

わずかに息を漏らす音がした。

笑った。

絶対、笑った。

「今、笑いましたよね」

『笑っていない』

「嘘。聞こえました」

『運転に集中しろ』

話を逸らした。

やっぱり怪しい。

「それで、明日はどうすればいいんですか?」

『今日と同じ地下三階へ入れ。奥に社員用区画がある』

「でも、社員証がなければゲートを通れませんよね?」

『お前の車は、もう登録してある』

「……はい?」

今日。

初めて乗ったばかりの車なのに。

『ナンバーは宏輝さんから聞いた』

また、お父様。

私の知らないところで、どこまで話が進んでいるの。

「では、社員用の入り口から入れるんですか?」

『明日はまだ無理だ。地下三階へ着いたら俺に連絡しろ』

「城之内課長ではなく?」

『俺に』

「藤和CEO自ら迎えに来るんですか?」

『そうだ』

それは。

どう考えても目立つ。

「城之内課長にお願いした方が自然では?」

『城之内には別の仕事がある』

「では、ほかの秘書課の方に――」

『俺が行く』

取りつく島がない。

「……分かりました」

『八時二十分には着け』