『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

また明日。

その言葉に。

胸が妙にざわめいた。

昔。

いつの間にか失われてしまった言葉。

でも今は。

明日になれば、また会う。

それも。

この人の専属秘書として。

小さく頭を下げ、ゆっくりと車を発進させる。

バックミラーの中で。

遼河さんの姿が少しずつ遠ざかっていく。

それでも。

駐車場の出口へ曲がる直前まで、彼はその場に立って私を見送っていた。

「……重い」

誰もいない車内で、思わず呟く。

でも。

嫌ではなかった。

それを認めるのが悔しくて、私は前を向いた。

会社の地下駐車場を出る。

午後の陽射しを受けた東京の街並みが、フロントガラスの向こうに広がった。

高層ビルの間を縫うように続く幹線道路。

行き交う車。

信号待ちの人々。

五年ぶりに見る東京は、変わっていないようで。

やっぱり少しずつ変わっている。

それはきっと。

人も同じなのだろう。

十三年ぶりにまともに言葉を交わした遼河さんは、昔の面影を残しながら。

私の知らない大人の男性になっていた。

藤和グループの御曹司として、そのまま後継者になるのだと思っていた人。

その人が自分で会社を立ち上げ。

世界的企業へ育て。

今ではKSサイエンスのCEOになっている。

それなのに。

変わっていないところもある。

人の話を最後まで聞かずに決めるところ。

一度決めたら簡単には引かないところ。

強引なところ。

……むしろ、昔より酷くなってない?

「明日から、大丈夫かな……」

赤信号で車を止める。

仕事は仕事。

そこだけは、絶対に曖昧にしたくない。

幼馴染だからと甘えるつもりはない。

むしろ。

遼河さんには、私の実力をきちんと認めさせたい。

問題なのは。

そこではない。

『俺は蘭さんとの婚約など、一度も受け入れていない』

また、声が蘇る。

十三年間。

好きになってはいけない人だと思っていた。

その理由が。

最初から存在しなかった。

「……今さら、どうしろっていうのよ」

信号が青に変わる。

ゆっくりアクセルを踏む。

考えるのはやめよう。

少なくとも今日は。

明日からは仕事なのだから。

そう思ったところで。

ふと。

別の疑問が浮かんだ。

「……明日、八時半」

遼河さんは確かにそう言った。

でも。

「八時半に、どこへ?」

次々と疑問が湧いてくる。

今日停めたのは来客用スペース。

社員用の駐車場は?

社員証も入館証もまだ受け取っていない。

どの入り口から入ればいいの?

八時半に誰を訪ねるの?

遼河さん?

城之内さん?

秘書課?

「……何も聞いてない」