『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』



残されたのは。

遼河さん。

ジュリアン。

そして私。

急に、部屋が広く感じた。

「さて」

沈黙を破ったのはジュリアンだった。

「どちらから話す?」

「ジュリアンは黙っていろ」

「はいはい」

即座に外された。

遼河さんの視線が、まっすぐ私へ向く。

「さっきの話だ」

「……何のことでしょう」

「俺がいると知っていたら、この仕事を断ったと言ったな」

逃げられなかった。

「断った可能性はあります」

「理由は?」

「個人的なことです」

「それは聞いた」

「でしたら――」

「蘭さんか?」

心臓が、大きく跳ねた。

どうして。

何も答えられずにいると、遼河さんの眉間にわずかに皺が寄る。

「やっぱりそうか」

「……何がですか」

「お前が昔から、蘭さんと俺のことを妙に気にしていた理由だ」

私は唇を結んだ。

言いたくない。

こんな話。

十三年間も一人で勝手に信じ込み、勝手に諦めていたなんて。

「綾乃」

逃がさない声だった。

仕方なく、息を吐く。

「……蘭は、遼河さんの許嫁なのでしょう?」

会議室が静まり返った。

遼河さんの表情が止まる。

ジュリアンまで、笑みを消した。

「誰がそんなことを言った」

低い声だった。

「蘭です」

「ほかには」

「早紀子さんも。私が十三歳の頃から、ずっと……」

言い終わるより早く。

遼河さんの表情が険しくなった。

「違う」

「え?」

「俺は蘭さんとの婚約など、一度も受け入れていない」

一瞬。

意味が分からなかった。

「……でも」

「許嫁でもない」

「そんなはず……」

「ある」

きっぱりと言い切られる。

「話を持ち込まれたことはある。だが、その都度断った。俺の両親も了承していない」

何を言われているのか。

頭が追いつかない。

「待ってください」

十三歳。

あの日。

嬉しそうに笑っていた蘭。

『遼河さんは、私の許嫁になるの』

そして。

それを当然のことのように肯定した早紀子さん。

『蘭には、遼河さんのような方がふさわしいわ』

私は。

それを信じて。

遼河さんを好きになってはいけないと思って。

自分から距離を置いた。

「……じゃあ」

声が掠れた。

「全部……嘘だったの?」