『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』



「それでは、改めて顔合わせミーティングを始めます」

城之内さんの一声で、室内の空気が変わった。

全員の表情が、瞬時に仕事のものへ切り替わる。

私も手元の端末へ視線を落とした。

「鷹宮さんには、藤和CEO付きの専属秘書として勤務していただきます。通常のスケジュール管理、来客対応、会議調整に加え、海外企業との交渉補助、英文契約書の確認、M&A案件に関する資料作成にも携わっていただく予定です」

「承知いたしました」

「機密性の高い案件が多いため、報告経路は原則として藤和CEO、マクレガー副社長、そして秘書課長である私の三者です。案件によっては、各部門長との直接調整もお願いいたします」

説明を聞きながら、資料へ目を通す。

決裁権限の範囲。

海外拠点との連絡経路。

機密情報の管理区分。

緊急時にCEOへ連絡が取れない場合の優先順位。

気になった箇所を順番に確認していくうちに、先ほどまでの動揺が少しずつ薄れていった。

仕事に集中すればいい。

ここでは、遼河さんは幼馴染ではない。

KSサイエンスのCEO。

私は、その専属秘書になる。

それだけ。

「ほかに確認しておきたいことはありますか?」

城之内さんに尋ねられ、私はもう一度資料を確認した。

「現時点ではございません。詳細については、実務に入り次第、必要に応じて確認させていただきます」

「分かりました」

顔を上げる。

遼河さんが、こちらを見ていた。

先ほどまでの幼馴染を見る目とは違う。

私の受け答えを、一人の仕事相手として見極めようとする目。

「経歴だけではないようだな」

「何がでしょうか」

「ジュリアンがお前を推薦した理由だ」

声にも、もう先ほどまでの私情はなかった。

「仕事に関して、特別扱いするつもりはない」

「望んでおりません」

「俺の要求は厳しい」

「承知しております」

「ついてこられるか?」

試すような視線。

私は背筋を伸ばした。

「その判断は、実際に私の仕事をご覧になってからお願いいたします」

一瞬。

遼河さんの目が細くなる。

「いい答えだ」

胸の奥で、小さく息を吐いた。

幼馴染でも。

初恋の人でもない。

CEOと秘書。

少なくとも仕事の上では。

そういう関係でいられる。

――はずだった。