「それでは、改めて顔合わせミーティングを始めます」
城之内さんの一声で、室内の空気が変わった。
全員の表情が、瞬時に仕事のものへ切り替わる。
私も手元の端末へ視線を落とした。
「鷹宮さんには、藤和CEO付きの専属秘書として勤務していただきます。通常のスケジュール管理、来客対応、会議調整に加え、海外企業との交渉補助、英文契約書の確認、M&A案件に関する資料作成にも携わっていただく予定です」
「承知いたしました」
「機密性の高い案件が多いため、報告経路は原則として藤和CEO、マクレガー副社長、そして秘書課長である私の三者です。案件によっては、各部門長との直接調整もお願いいたします」
説明を聞きながら、資料へ目を通す。
決裁権限の範囲。
海外拠点との連絡経路。
機密情報の管理区分。
緊急時にCEOへ連絡が取れない場合の優先順位。
気になった箇所を順番に確認していくうちに、先ほどまでの動揺が少しずつ薄れていった。
仕事に集中すればいい。
ここでは、遼河さんは幼馴染ではない。
KSサイエンスのCEO。
私は、その専属秘書になる。
それだけ。
「ほかに確認しておきたいことはありますか?」
城之内さんに尋ねられ、私はもう一度資料を確認した。
「現時点ではございません。詳細については、実務に入り次第、必要に応じて確認させていただきます」
「分かりました」
顔を上げる。
遼河さんが、こちらを見ていた。
先ほどまでの幼馴染を見る目とは違う。
私の受け答えを、一人の仕事相手として見極めようとする目。
「経歴だけではないようだな」
「何がでしょうか」
「ジュリアンがお前を推薦した理由だ」
声にも、もう先ほどまでの私情はなかった。
「仕事に関して、特別扱いするつもりはない」
「望んでおりません」
「俺の要求は厳しい」
「承知しております」
「ついてこられるか?」
試すような視線。
私は背筋を伸ばした。
「その判断は、実際に私の仕事をご覧になってからお願いいたします」
一瞬。
遼河さんの目が細くなる。
「いい答えだ」
胸の奥で、小さく息を吐いた。
幼馴染でも。
初恋の人でもない。
CEOと秘書。
少なくとも仕事の上では。
そういう関係でいられる。
――はずだった。
