「遅れて申し訳ない」
低く。
よく通る声。
たったそれだけだった。
なのに。
胸の奥が、大きく揺れた。
息が止まる。
知らないはずがない。
忘れるはずもない。
ずっと聞いていなかったのに。
耳だけが、先にその声を思い出した。
まさか。
ゆっくりと振り返る。
扉の前に立っていたのは、長身の男性だった。
完璧に仕立てられたダークスーツ。
広い肩。
鍛えられた体格。
昔の面影を残しながらも。
記憶の中にいた青年は、隙のない大人の男性へと変わっていた。
けれど。
見間違えるはずがない。
「……遼河さん?」
喉から、かろうじて声が出た。
藤和遼河。
私より六歳年上。
大手デベロッパー・藤和グループの御曹司。
そして――
幼い頃。
私が初めて好きになった人。
初めて会ったのは、私が十歳の頃だった。
お父様に連れられて出席した仕事関係のパーティー。
当時十六歳だった遼河さんは、子どもだった私にも面倒がらずに話しかけてくれた。
家同士の付き合いもあり、その後も顔を合わせる機会は何度もあった。
六歳も年上の彼のあとを、私はいつも追いかけていた。
気づいた時には。
ただの「お兄さん」ではなくなっていた。
けれど。
十三歳の頃。
二歳下の蘭が、突然言い始めた。
『遼河さんは、私の許嫁になるの』
最初は。
蘭のいつもの思いつきだと思った。
けれど早紀子さんは、否定しなかった。
それどころか。
『そうよ。蘭には、遼河さんのような方がふさわしいわ』
当然のことのように笑った。
だから私は。
信じた。
蘭と遼河さんの間には、家同士で決められた未来があるのだと。
本人へ確かめる勇気なんてなかった。
好きになってはいけない人なのだと。
そう思って。
十三歳の私は、自分の気持ちに蓋をした。
低く。
よく通る声。
たったそれだけだった。
なのに。
胸の奥が、大きく揺れた。
息が止まる。
知らないはずがない。
忘れるはずもない。
ずっと聞いていなかったのに。
耳だけが、先にその声を思い出した。
まさか。
ゆっくりと振り返る。
扉の前に立っていたのは、長身の男性だった。
完璧に仕立てられたダークスーツ。
広い肩。
鍛えられた体格。
昔の面影を残しながらも。
記憶の中にいた青年は、隙のない大人の男性へと変わっていた。
けれど。
見間違えるはずがない。
「……遼河さん?」
喉から、かろうじて声が出た。
藤和遼河。
私より六歳年上。
大手デベロッパー・藤和グループの御曹司。
そして――
幼い頃。
私が初めて好きになった人。
初めて会ったのは、私が十歳の頃だった。
お父様に連れられて出席した仕事関係のパーティー。
当時十六歳だった遼河さんは、子どもだった私にも面倒がらずに話しかけてくれた。
家同士の付き合いもあり、その後も顔を合わせる機会は何度もあった。
六歳も年上の彼のあとを、私はいつも追いかけていた。
気づいた時には。
ただの「お兄さん」ではなくなっていた。
けれど。
十三歳の頃。
二歳下の蘭が、突然言い始めた。
『遼河さんは、私の許嫁になるの』
最初は。
蘭のいつもの思いつきだと思った。
けれど早紀子さんは、否定しなかった。
それどころか。
『そうよ。蘭には、遼河さんのような方がふさわしいわ』
当然のことのように笑った。
だから私は。
信じた。
蘭と遼河さんの間には、家同士で決められた未来があるのだと。
本人へ確かめる勇気なんてなかった。
好きになってはいけない人なのだと。
そう思って。
十三歳の私は、自分の気持ちに蓋をした。
