『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』



しばらくして身体を離すと、私は改めて佐知子さんを見た。

「でも、本当にどうしてここにいるの?」

「旦那様からお話をいただいたのでございます」

「お父様から?」

「はい。一昨年、私は鷹宮のお屋敷を退職いたしまして、息子夫婦のところで暮らしておりました」

それは聞いていた。

私が日本を離れてから三年ほど経った頃。

佐知子さんが鷹宮家を辞めたらしい、と志水さんから連絡をもらったことがある。

「ですが先日、旦那様からご連絡をいただきまして」

佐知子さんの顔に、柔らかな笑みが戻る。

「綾乃お嬢様がお帰りになるので、こちらのお住まいをお願いできないか、と」

「それで……?」

「再び働かせていただくことにいたしました」

嬉しさが、じわじわと胸へ広がっていく。

「私のために、戻ってきてくれたの?」

「綾乃お嬢様のお世話でしたら、断る理由などございません」

「私、もう二十六歳よ」

「存じております」

「一人で生活できます」

「それも存じております」

「じゃあ、お世話はいらないんじゃない?」

「お食事は?」

「……作れます」

「お掃除は?」

「できます」

「お仕事でお忙しい日は?」

「……」

佐知子さんが、にこりと笑った。

「では、必要でございますね」

負けた。

昔から、この人には敵わない。

「とりあえず、お顔を洗っていらしてくださいませ。朝食が冷めてしまいます」

「はいはい」

返事をしながら洗面室へ向かいかけ――

「綾乃お嬢様」

「なに?」

「お嬢様がお帰りになるのを楽しみにしていたのは、私だけではございませんよ」

振り返る。

けれど佐知子さんは、それ以上何も言わず、再びキッチンへ向き直った。

昨日のお父様といい。

志水さんといい。

どうして皆、意味深なことだけ言って続きを教えてくれないのだろう。

「……帰国早々、隠し事だらけなんだけど」

小さく呟き、洗面室へ向かった。