『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

父と志水さんを見送ったあとも、私はしばらく玄関の前に立っていた。

扉が閉まっただけなのに。

部屋の中から、一気に音が消えたように感じる。

今日聞いたことを、まだ全部整理できていない。

父が帰ってきた。

慎ちゃんが六年半前から、事件の一端を知っていた。

しかも。

自分の力で。

ずっと語学留学だと思っていたその裏で。

慎ちゃんもまた、守られていた。

そして今は。

お母さんのところにいる。

会いたい。

顔を見て。

どうして黙ってたの、と文句を言いたい。

でも。

それは全部終わってからだ。

「綾乃お嬢様」

振り返ると、佐知子さんが時計へ目をやった。

「では、私も今日はこれで失礼いたしますね」

「あ……もうこんな時間」

「旦那様がお戻りになる日ですもの。今日くらいは構いませんよ」

「ごめんね。遅くまで」

「謝らなくて結構です」

そう言って微笑んだあと。

佐知子さんの視線が、ほんの一瞬だけ私のお腹へ落ちた。

見逃さなかった。

「……何?」

「何も」

「絶対、何か言いたい顔してる」

「うふふ」

「ほら」

佐知子さんは楽しそうに笑ったあと。

少しだけ声を柔らかくした。

「無理はなさらないでくださいね」

「分かってる」

「それと」

「何?」

「藤和様には、きちんとお話しするんですよ」

「……分かってます」

佐知子さんは満足そうに頷いた。

「では、お先に失礼いたします」

「今日はありがとう」

「どういたしまして」

玄関まで見送り。

扉を閉める。

今度こそ。

部屋に本当の静けさが戻った。