瞬きをする。
もう一度見る。
変わらない。
説明書を見る。
そして。
もう一度。
検査薬を見る。
「……え……?」
呼吸の仕方が。
分からなくなった。
手が。
小さく震えている。
頭の中が。
真っ白になった。
嬉しい。
怖い。
どうしよう。
本当に?
いろんな言葉が。
一度に浮かんで。
一つも形にならなかった。
しばらくして。
私は。
そっと。
自分のお腹へ手を当てた。
まだ。
何も変わらない。
鏡で見ても。
いつもの自分。
当然。
動くはずもない。
何かを感じるはずもない。
それなのに。
ここに。
いるのかもしれない。
私の中に。
遼河さんと。
私の。
子どもが。
「……ほんとに?」
ようやく。
声になった。
その瞬間だった。
涙が。
ぽろっと落ちた。
自分でも。
なぜ泣いているのか。
分からなかった。
怖いから?
驚いたから?
それとも。
嬉しいから?
たぶん。
全部だった。
でも。
一つだけ。
はっきりしていた。
嫌ではない。
この結果を。
消えてほしいとは。
一瞬も思わなかった。
むしろ。
お腹へ触れた手を。
離せなくなった。
「……いるの?」
答えなんて。
返ってくるはずもない。
それでも。
聞かずにはいられなかった。
「本当に……ここにいるの?」
涙が。
また落ちる。
今度は。
少しだけ。
笑っていた。
そして。
真っ先に。
遼河さんの顔が浮かんだ。
知ったら。
きっと喜ぶ。
驚いて。
それから。
たぶん。
私以上に。
ものすごく喜ぶ。
どんな顔をするだろう。
あの遼河さんが。
言葉を失ったりするのだろうか。
そんなことを想像して。
胸の奥が温かくなった。
でも。
次の瞬間。
別の言葉が蘇った。
『俺は責任を取る』
笑みが。
少しだけ消えた。
胸の奥に残っていた小さな棘が。
再び。
顔を出した。
違う。
分かっている。
遼河さんは。
責任だけで私と一緒にいる人ではない。
愛されている。
それは。
もう疑っていない。
私を何年も探したことも。
昔から大切に思ってくれていたことも。
全部。
知っている。
でも。
もし。
本当にこの子がいると分かったら。
遼河さんは。
きっと。
迷わない。
結婚しよう。
一緒に住もう。
仕事はどうする。
身体を優先しろ。
必要なものは全部用意する。
――きっと。
私が考えるより先に。
未来を整えようとする。
それは。
遼河さんなりの愛情。
守るということ。
分かっている。
分かっているからこそ。
今すぐには。
言えなかった。
私が欲しいのは。
“責任を取ってもらうこと”ではない。
この子ができたから。
結婚するのでもない。
遼河さんに。
私を選んでほしい。
この子を。
義務ではなく。
愛する家族として。
選んでほしい。
そして何より。
私自身も。
誰かに決められるのではなく。
自分で。
この未来を選びたい。
十三歳のあの日。
私は。
蘭の言葉だけで。
自分の恋の終わりを決めてしまった。
誰にも聞かず。
自分の気持ちさえ。
置き去りにした。
だから。
今度こそ。
同じことはしたくなかった。
「……どうしよう」
嬉しい。
本当は。
今すぐ遼河さんへ電話してしまいたいくらい。
声を聞きたい。
会いたい。
この結果を見せたい。
抱きしめてもらいたい。
でも。
怖かった。
この一言を伝えた瞬間。
私たちの関係が。
恋人から。
一気に。
もっと先へ進んでしまう気がした。
私は。
まだ。
その速度に。
心が追いついていなかった。
洗面台の前で。
しばらく立ち尽くしたあと。
もう一度。
お腹へ手を当てた。
片方だけでは足りなくて。
両手で。
そっと包む。
もちろん。
まだ何も感じない。
でも。
さっきまでとは違った。
自分の身体なのに。
そこだけ。
とても大切なものを預かっているような気がした。
「……少しだけ」
声が。
小さく震えた。
「もう少しだけ……」
目を閉じる。
「お母さんに、考える時間……ちょうだいね」
言ってから。
自分で固まった。
――お母さん。
今。
私は。
自分のことを。
そう呼んだ。
胸の奥が。
急に熱くなった。
「……お母さん……」
もう一度。
今度は。
確かめるように呟いた。
涙が。
次から次へと溢れた。
嬉しくて。
怖くて。
信じられなくて。
それでも。
愛おしかった。
まだ。
姿も見えない。
声も聞こえない。
本当にそこにいると。
医師から言われたわけでもない。
それなのに。
もう。
守りたいと思っている自分がいた。
「……ちゃんと、考えるから」
お腹を撫でる。
「あなたのことも」
そして。
少しだけ息を詰めた。
「……パパのことも」
遼河さんの顔が浮かぶ。
きっと。
この子を。
ものすごく大切にする。
そのことだけは。
なぜか。
疑わなかった。
だからこそ。
ちゃんと。
伝えたい。
怖さからでも。
責任からでもなく。
二人で。
この子を迎えたい。
そのために。
ほんの少しだけ。
自分の心を整理する時間が欲しかった。
洗面台の鏡に映る私は。
泣いているのに。
どこか。
昨日までとは違って見えた。
結ばれた愛の先に。
誰にも知られないほど小さな。
新しい可能性が。
今。
私の中で。
静かに。
芽を出し始めていた。
もう一度見る。
変わらない。
説明書を見る。
そして。
もう一度。
検査薬を見る。
「……え……?」
呼吸の仕方が。
分からなくなった。
手が。
小さく震えている。
頭の中が。
真っ白になった。
嬉しい。
怖い。
どうしよう。
本当に?
いろんな言葉が。
一度に浮かんで。
一つも形にならなかった。
しばらくして。
私は。
そっと。
自分のお腹へ手を当てた。
まだ。
何も変わらない。
鏡で見ても。
いつもの自分。
当然。
動くはずもない。
何かを感じるはずもない。
それなのに。
ここに。
いるのかもしれない。
私の中に。
遼河さんと。
私の。
子どもが。
「……ほんとに?」
ようやく。
声になった。
その瞬間だった。
涙が。
ぽろっと落ちた。
自分でも。
なぜ泣いているのか。
分からなかった。
怖いから?
驚いたから?
それとも。
嬉しいから?
たぶん。
全部だった。
でも。
一つだけ。
はっきりしていた。
嫌ではない。
この結果を。
消えてほしいとは。
一瞬も思わなかった。
むしろ。
お腹へ触れた手を。
離せなくなった。
「……いるの?」
答えなんて。
返ってくるはずもない。
それでも。
聞かずにはいられなかった。
「本当に……ここにいるの?」
涙が。
また落ちる。
今度は。
少しだけ。
笑っていた。
そして。
真っ先に。
遼河さんの顔が浮かんだ。
知ったら。
きっと喜ぶ。
驚いて。
それから。
たぶん。
私以上に。
ものすごく喜ぶ。
どんな顔をするだろう。
あの遼河さんが。
言葉を失ったりするのだろうか。
そんなことを想像して。
胸の奥が温かくなった。
でも。
次の瞬間。
別の言葉が蘇った。
『俺は責任を取る』
笑みが。
少しだけ消えた。
胸の奥に残っていた小さな棘が。
再び。
顔を出した。
違う。
分かっている。
遼河さんは。
責任だけで私と一緒にいる人ではない。
愛されている。
それは。
もう疑っていない。
私を何年も探したことも。
昔から大切に思ってくれていたことも。
全部。
知っている。
でも。
もし。
本当にこの子がいると分かったら。
遼河さんは。
きっと。
迷わない。
結婚しよう。
一緒に住もう。
仕事はどうする。
身体を優先しろ。
必要なものは全部用意する。
――きっと。
私が考えるより先に。
未来を整えようとする。
それは。
遼河さんなりの愛情。
守るということ。
分かっている。
分かっているからこそ。
今すぐには。
言えなかった。
私が欲しいのは。
“責任を取ってもらうこと”ではない。
この子ができたから。
結婚するのでもない。
遼河さんに。
私を選んでほしい。
この子を。
義務ではなく。
愛する家族として。
選んでほしい。
そして何より。
私自身も。
誰かに決められるのではなく。
自分で。
この未来を選びたい。
十三歳のあの日。
私は。
蘭の言葉だけで。
自分の恋の終わりを決めてしまった。
誰にも聞かず。
自分の気持ちさえ。
置き去りにした。
だから。
今度こそ。
同じことはしたくなかった。
「……どうしよう」
嬉しい。
本当は。
今すぐ遼河さんへ電話してしまいたいくらい。
声を聞きたい。
会いたい。
この結果を見せたい。
抱きしめてもらいたい。
でも。
怖かった。
この一言を伝えた瞬間。
私たちの関係が。
恋人から。
一気に。
もっと先へ進んでしまう気がした。
私は。
まだ。
その速度に。
心が追いついていなかった。
洗面台の前で。
しばらく立ち尽くしたあと。
もう一度。
お腹へ手を当てた。
片方だけでは足りなくて。
両手で。
そっと包む。
もちろん。
まだ何も感じない。
でも。
さっきまでとは違った。
自分の身体なのに。
そこだけ。
とても大切なものを預かっているような気がした。
「……少しだけ」
声が。
小さく震えた。
「もう少しだけ……」
目を閉じる。
「お母さんに、考える時間……ちょうだいね」
言ってから。
自分で固まった。
――お母さん。
今。
私は。
自分のことを。
そう呼んだ。
胸の奥が。
急に熱くなった。
「……お母さん……」
もう一度。
今度は。
確かめるように呟いた。
涙が。
次から次へと溢れた。
嬉しくて。
怖くて。
信じられなくて。
それでも。
愛おしかった。
まだ。
姿も見えない。
声も聞こえない。
本当にそこにいると。
医師から言われたわけでもない。
それなのに。
もう。
守りたいと思っている自分がいた。
「……ちゃんと、考えるから」
お腹を撫でる。
「あなたのことも」
そして。
少しだけ息を詰めた。
「……パパのことも」
遼河さんの顔が浮かぶ。
きっと。
この子を。
ものすごく大切にする。
そのことだけは。
なぜか。
疑わなかった。
だからこそ。
ちゃんと。
伝えたい。
怖さからでも。
責任からでもなく。
二人で。
この子を迎えたい。
そのために。
ほんの少しだけ。
自分の心を整理する時間が欲しかった。
洗面台の鏡に映る私は。
泣いているのに。
どこか。
昨日までとは違って見えた。
結ばれた愛の先に。
誰にも知られないほど小さな。
新しい可能性が。
今。
私の中で。
静かに。
芽を出し始めていた。

