『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

瞬きをする。

もう一度見る。

変わらない。

説明書を見る。

そして。

もう一度。

検査薬を見る。

「……え……?」

呼吸の仕方が。

分からなくなった。

手が。

小さく震えている。

頭の中が。

真っ白になった。

嬉しい。

怖い。

どうしよう。

本当に?

いろんな言葉が。

一度に浮かんで。

一つも形にならなかった。

しばらくして。

私は。

そっと。

自分のお腹へ手を当てた。

まだ。

何も変わらない。

鏡で見ても。

いつもの自分。

当然。

動くはずもない。

何かを感じるはずもない。

それなのに。

ここに。

いるのかもしれない。

私の中に。

遼河さんと。

私の。

子どもが。

「……ほんとに?」

ようやく。

声になった。

その瞬間だった。

涙が。

ぽろっと落ちた。

自分でも。

なぜ泣いているのか。

分からなかった。

怖いから?

驚いたから?

それとも。

嬉しいから?

たぶん。

全部だった。

でも。

一つだけ。

はっきりしていた。

嫌ではない。

この結果を。

消えてほしいとは。

一瞬も思わなかった。

むしろ。

お腹へ触れた手を。

離せなくなった。

「……いるの?」

答えなんて。

返ってくるはずもない。

それでも。

聞かずにはいられなかった。

「本当に……ここにいるの?」

涙が。

また落ちる。

今度は。

少しだけ。

笑っていた。

そして。

真っ先に。

遼河さんの顔が浮かんだ。

知ったら。

きっと喜ぶ。

驚いて。

それから。

たぶん。

私以上に。

ものすごく喜ぶ。

どんな顔をするだろう。

あの遼河さんが。

言葉を失ったりするのだろうか。

そんなことを想像して。

胸の奥が温かくなった。

でも。

次の瞬間。

別の言葉が蘇った。

『俺は責任を取る』

笑みが。

少しだけ消えた。

胸の奥に残っていた小さな棘が。

再び。

顔を出した。

違う。

分かっている。

遼河さんは。

責任だけで私と一緒にいる人ではない。

愛されている。

それは。

もう疑っていない。

私を何年も探したことも。

昔から大切に思ってくれていたことも。

全部。

知っている。

でも。

もし。

本当にこの子がいると分かったら。

遼河さんは。

きっと。

迷わない。

結婚しよう。

一緒に住もう。

仕事はどうする。

身体を優先しろ。

必要なものは全部用意する。

――きっと。

私が考えるより先に。

未来を整えようとする。

それは。

遼河さんなりの愛情。

守るということ。

分かっている。

分かっているからこそ。

今すぐには。

言えなかった。

私が欲しいのは。

“責任を取ってもらうこと”ではない。

この子ができたから。

結婚するのでもない。

遼河さんに。

私を選んでほしい。

この子を。

義務ではなく。

愛する家族として。

選んでほしい。

そして何より。

私自身も。

誰かに決められるのではなく。

自分で。

この未来を選びたい。

十三歳のあの日。

私は。

蘭の言葉だけで。

自分の恋の終わりを決めてしまった。

誰にも聞かず。

自分の気持ちさえ。

置き去りにした。

だから。

今度こそ。

同じことはしたくなかった。

「……どうしよう」

嬉しい。

本当は。

今すぐ遼河さんへ電話してしまいたいくらい。

声を聞きたい。

会いたい。

この結果を見せたい。

抱きしめてもらいたい。

でも。

怖かった。

この一言を伝えた瞬間。

私たちの関係が。

恋人から。

一気に。

もっと先へ進んでしまう気がした。

私は。

まだ。

その速度に。

心が追いついていなかった。

洗面台の前で。

しばらく立ち尽くしたあと。

もう一度。

お腹へ手を当てた。

片方だけでは足りなくて。

両手で。

そっと包む。

もちろん。

まだ何も感じない。

でも。

さっきまでとは違った。

自分の身体なのに。

そこだけ。

とても大切なものを預かっているような気がした。

「……少しだけ」

声が。

小さく震えた。

「もう少しだけ……」

目を閉じる。

「お母さんに、考える時間……ちょうだいね」

言ってから。

自分で固まった。

――お母さん。

今。

私は。

自分のことを。

そう呼んだ。

胸の奥が。

急に熱くなった。

「……お母さん……」

もう一度。

今度は。

確かめるように呟いた。

涙が。

次から次へと溢れた。

嬉しくて。

怖くて。

信じられなくて。

それでも。

愛おしかった。

まだ。

姿も見えない。

声も聞こえない。

本当にそこにいると。

医師から言われたわけでもない。

それなのに。

もう。

守りたいと思っている自分がいた。

「……ちゃんと、考えるから」

お腹を撫でる。

「あなたのことも」

そして。

少しだけ息を詰めた。

「……パパのことも」

遼河さんの顔が浮かぶ。

きっと。

この子を。

ものすごく大切にする。

そのことだけは。

なぜか。

疑わなかった。

だからこそ。

ちゃんと。

伝えたい。

怖さからでも。

責任からでもなく。

二人で。

この子を迎えたい。

そのために。

ほんの少しだけ。

自分の心を整理する時間が欲しかった。

洗面台の鏡に映る私は。

泣いているのに。

どこか。

昨日までとは違って見えた。

結ばれた愛の先に。

誰にも知られないほど小さな。

新しい可能性が。

今。

私の中で。

静かに。

芽を出し始めていた。