『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

ミラー越しに目が合った。

何も言わない。

けれど、その目が静かに訴えているように見えた。

――今は、何も聞かないでください。

私は口にしかけた言葉をのみ込み、お父様の隣へ腰を下ろした。

車がゆっくりと羽田を離れていく。

窓の向こうには、懐かしい東京の街並みが流れていた。

五年くらいでは、そんなに変わらない。

そう思っていた。

けれど、知っている建物の隣に知らないビルが建ち、見覚えのあった店がなくなり、景色の中へ少しずつ知らない東京が混ざっている。

「……五年って、やっぱり長いんだ」

何気なく呟くと、お父様がこちらを見た。

「そう思うか」

「うん。変わっていないようで、結構変わってる」

「人も同じだ」

「え?」

聞き返したけれど、お父様はそれ以上何も言わなかった。

しばらくして、お父様は窓の外を見たまま静かに口を開いた。

「綾乃が暮らす家は、こちらで用意してある」

「……家?」

思わず振り向いた。

「ああ。家具も生活に必要なものも揃えてある。足りないものがあれば志水に伝えなさい」

「ちょっと待って」

てっきり、帰国すれば鷹宮家へ戻るのだと思っていた。

もちろん。

戻りたいかと聞かれれば、答えは違う。

それでも日本へ帰ってきた以上、あの家へ戻るものだと勝手に思っていた。

「私、鷹宮の家には戻らないの?」

「ああ」

返事に迷いはない。

「戻る必要はない」

その言葉に、ほっとした。

けれど同時に、別の疑問も浮かぶ。

「でも、早紀子さんたちは?」

「知らない」

「え?」

「お前が日本へ戻ったことは、早紀子にも蘭にも知らせていない」

思わず、お父様の顔を見た。

「帰国したこと自体を?」

「ああ」

胸の奥がざわついた。

五年前と同じだった。

あの時も。

お父様は何も説明しないまま、私の行き先を隠した。

そして今度は、日本へ戻ってきたことまで隠そうとしている。

「どうして、そこまで……」

お父様がゆっくりこちらを見る。

「今はまだ、あの二人にお前の存在を知られるわけにはいかない」

「お父様は、何をしようとしているの?」

一瞬だけ、その瞳が揺れた。

けれど返ってきた言葉は――

「いずれ分かる」

思わず眉が寄った。

また、それ。

五年前も同じことを言われた。

いずれ分かる。

何も聞くな。

我慢してくれ。

それから五年も経ったというのに。

「お父様」

少しだけ不満を込めて呼ぶ。

「何だ」

「五年前も、それを聞きました」

「ああ」

「五年経ちましたけど」

「……そうだな」

じっと横顔を見る。

すると、お父様がほんの少しだけ苦笑した。

その表情があまりにも珍しくて、それ以上追及する気が削がれてしまった。

「……分かりました」

諦めて座り直すと、お父様は小さく息を吐いた。

「すまない、綾乃」

今度は、私の方が固まった。

「……え?」

お父様から謝られた記憶なんて、ほとんどない。

顔を上げる。

けれど、お父様はすでに窓の外へ視線を戻していた。

何を謝ったの。

五年前のこと?

それとも――もっと前のこと?