ミラー越しに目が合った。
何も言わない。
けれど、その目が静かに訴えているように見えた。
――今は、何も聞かないでください。
私は口にしかけた言葉をのみ込み、お父様の隣へ腰を下ろした。
車がゆっくりと羽田を離れていく。
窓の向こうには、懐かしい東京の街並みが流れていた。
五年くらいでは、そんなに変わらない。
そう思っていた。
けれど、知っている建物の隣に知らないビルが建ち、見覚えのあった店がなくなり、景色の中へ少しずつ知らない東京が混ざっている。
「……五年って、やっぱり長いんだ」
何気なく呟くと、お父様がこちらを見た。
「そう思うか」
「うん。変わっていないようで、結構変わってる」
「人も同じだ」
「え?」
聞き返したけれど、お父様はそれ以上何も言わなかった。
しばらくして、お父様は窓の外を見たまま静かに口を開いた。
「綾乃が暮らす家は、こちらで用意してある」
「……家?」
思わず振り向いた。
「ああ。家具も生活に必要なものも揃えてある。足りないものがあれば志水に伝えなさい」
「ちょっと待って」
てっきり、帰国すれば鷹宮家へ戻るのだと思っていた。
もちろん。
戻りたいかと聞かれれば、答えは違う。
それでも日本へ帰ってきた以上、あの家へ戻るものだと勝手に思っていた。
「私、鷹宮の家には戻らないの?」
「ああ」
返事に迷いはない。
「戻る必要はない」
その言葉に、ほっとした。
けれど同時に、別の疑問も浮かぶ。
「でも、早紀子さんたちは?」
「知らない」
「え?」
「お前が日本へ戻ったことは、早紀子にも蘭にも知らせていない」
思わず、お父様の顔を見た。
「帰国したこと自体を?」
「ああ」
胸の奥がざわついた。
五年前と同じだった。
あの時も。
お父様は何も説明しないまま、私の行き先を隠した。
そして今度は、日本へ戻ってきたことまで隠そうとしている。
「どうして、そこまで……」
お父様がゆっくりこちらを見る。
「今はまだ、あの二人にお前の存在を知られるわけにはいかない」
「お父様は、何をしようとしているの?」
一瞬だけ、その瞳が揺れた。
けれど返ってきた言葉は――
「いずれ分かる」
思わず眉が寄った。
また、それ。
五年前も同じことを言われた。
いずれ分かる。
何も聞くな。
我慢してくれ。
それから五年も経ったというのに。
「お父様」
少しだけ不満を込めて呼ぶ。
「何だ」
「五年前も、それを聞きました」
「ああ」
「五年経ちましたけど」
「……そうだな」
じっと横顔を見る。
すると、お父様がほんの少しだけ苦笑した。
その表情があまりにも珍しくて、それ以上追及する気が削がれてしまった。
「……分かりました」
諦めて座り直すと、お父様は小さく息を吐いた。
「すまない、綾乃」
今度は、私の方が固まった。
「……え?」
お父様から謝られた記憶なんて、ほとんどない。
顔を上げる。
けれど、お父様はすでに窓の外へ視線を戻していた。
何を謝ったの。
五年前のこと?
それとも――もっと前のこと?
何も言わない。
けれど、その目が静かに訴えているように見えた。
――今は、何も聞かないでください。
私は口にしかけた言葉をのみ込み、お父様の隣へ腰を下ろした。
車がゆっくりと羽田を離れていく。
窓の向こうには、懐かしい東京の街並みが流れていた。
五年くらいでは、そんなに変わらない。
そう思っていた。
けれど、知っている建物の隣に知らないビルが建ち、見覚えのあった店がなくなり、景色の中へ少しずつ知らない東京が混ざっている。
「……五年って、やっぱり長いんだ」
何気なく呟くと、お父様がこちらを見た。
「そう思うか」
「うん。変わっていないようで、結構変わってる」
「人も同じだ」
「え?」
聞き返したけれど、お父様はそれ以上何も言わなかった。
しばらくして、お父様は窓の外を見たまま静かに口を開いた。
「綾乃が暮らす家は、こちらで用意してある」
「……家?」
思わず振り向いた。
「ああ。家具も生活に必要なものも揃えてある。足りないものがあれば志水に伝えなさい」
「ちょっと待って」
てっきり、帰国すれば鷹宮家へ戻るのだと思っていた。
もちろん。
戻りたいかと聞かれれば、答えは違う。
それでも日本へ帰ってきた以上、あの家へ戻るものだと勝手に思っていた。
「私、鷹宮の家には戻らないの?」
「ああ」
返事に迷いはない。
「戻る必要はない」
その言葉に、ほっとした。
けれど同時に、別の疑問も浮かぶ。
「でも、早紀子さんたちは?」
「知らない」
「え?」
「お前が日本へ戻ったことは、早紀子にも蘭にも知らせていない」
思わず、お父様の顔を見た。
「帰国したこと自体を?」
「ああ」
胸の奥がざわついた。
五年前と同じだった。
あの時も。
お父様は何も説明しないまま、私の行き先を隠した。
そして今度は、日本へ戻ってきたことまで隠そうとしている。
「どうして、そこまで……」
お父様がゆっくりこちらを見る。
「今はまだ、あの二人にお前の存在を知られるわけにはいかない」
「お父様は、何をしようとしているの?」
一瞬だけ、その瞳が揺れた。
けれど返ってきた言葉は――
「いずれ分かる」
思わず眉が寄った。
また、それ。
五年前も同じことを言われた。
いずれ分かる。
何も聞くな。
我慢してくれ。
それから五年も経ったというのに。
「お父様」
少しだけ不満を込めて呼ぶ。
「何だ」
「五年前も、それを聞きました」
「ああ」
「五年経ちましたけど」
「……そうだな」
じっと横顔を見る。
すると、お父様がほんの少しだけ苦笑した。
その表情があまりにも珍しくて、それ以上追及する気が削がれてしまった。
「……分かりました」
諦めて座り直すと、お父様は小さく息を吐いた。
「すまない、綾乃」
今度は、私の方が固まった。
「……え?」
お父様から謝られた記憶なんて、ほとんどない。
顔を上げる。
けれど、お父様はすでに窓の外へ視線を戻していた。
何を謝ったの。
五年前のこと?
それとも――もっと前のこと?
