『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』

晴れやかな春の陽射しが、薄いカーテン越しに部屋へ差し込んでいた。

窓の外では小鳥がさえずっている。

今日だけは、その声さえ私の旅立ちを祝ってくれているように感じた。

いつもより少し早く目を覚ました私は、静かにベッドから起き上がる。

視線の先には、昨夜のうちに荷造りを終えた大きなスーツケース。

今日、私はこの家を出る。

少し遠くへ出掛ける、という話ではない。

海を越え、カリフォルニアへ行く。

いつ日本へ戻ってくるのかも、まだ決まっていなかった。

それなのに私は、いつもと変わらず髪をまとめ、部屋を出た。

朝食の準備を手伝い、使い終えた食器を片づける。

義母の早紀子さんから頼まれていたクリーニングの仕上がりを確認し、二歳下の異母妹・蘭が昨夜リビングへ置きっぱなしにしていた私物を元の場所へ戻していく。

今日、この家を出ていくからといって、何かが変わるわけではない。

少なくとも――

この家を出る、その瞬間までは。

鷹宮家の長女――鷹宮綾乃。

外では「鷹宮家のお嬢様」と呼ばれる。

けれど、一歩家へ戻れば、そんな肩書きなど何の意味もなかった。

私に与えられている部屋は、四畳半ほどしかない。

形だけは、私専用の部屋ということになっている。

けれど実際には、使わなくなった家具や季節外れの荷物、誰のものかも分からない段ボールが押し込まれ、その隙間へベッドと小さな机を置いただけだった。

どう見ても、私室というより倉庫に近い。

家の中では、早紀子さんや蘭に言われたことを黙ってこなす。

朝食の準備。

片づけ。

掃除。

買い物。

蘭が何かを探していると言えば一緒に探し、早紀子さんに呼ばれれば、自分のことをしている途中でも手を止める。

娘というより――家政婦。

いつからそうなったのかは、もうよく覚えていない。

気づいた頃には、それが私の日常になっていた。

だから私自身、それほど深く考えたこともなかった。

お父様も、何も知らないのだと思っていた。

私がこんな部屋で暮らしていることも。

この家で、どんな扱いを受けているのかも。

少なくとも――あの朝までは。