―綾香が去った後の図書室にて―
薫は綾香の去り際の言葉を思い出していた。
『じゃあ、またね〜』
そんな軽い声と共に、彼女は手を振って去っていった。
……またね、って。
今日、初めて会ったばかりなのに。
「……変な人」
思わず呟いた。
…そういえば、あの人名前も聞いてない。
まあ、別にいいか。
また会うかどうかも分からない相手だ。
名前を知らなくたって、特に困ることはない。
そう思いながら、また読書を再開する。
少しだけ頭の片隅に残ったのは、たぶんあの人が変わっていたからだ。
それだけ。
――このときの俺は、本当にそれだけだと思っていた。
