「ただいまー」
「おかえり、星那」
「お邪魔します」
「あら、夏希くんも一緒だったの?」
「はい」
「夕飯、食べていく?」
「いいんですか?」
「もちろん。昔から食べてるじゃない」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「ふふっ」
私は二人の会話を聞きながら、鞄を置いた。
「お母さん、今日ちょっと疲れてる?」
「え?」
「なんとなく」
「……分かる?」
「うん」
私はキッチンへ向かう。
「じゃあ、夕飯私が作るよ」
「星那、撮影あるんでしょう?」
「まだ時間あるから大丈夫」
「でも――」
「大丈夫。夏くんも手伝ってくれるし」
「え、俺?」
「当然」
「はいはい」
夏希が苦笑する。
こういう時間が、私は好きだった。
食事を終え、時計を見る。
「そろそろ行かなきゃ」
「気をつけてね」
「うん。行ってきます!」
「星那」
夏希に呼び止められる。
「なに?」
「撮影、頑張れよ」
「ありがとう」
私は笑って家を出た。
学校では地味な高校生。
家では、ただの娘。
そして――
カメラの前では、人気女優。
私には、いくつもの顔がある。
でも、このときの私はまだ知らなかった。
この夏、そのすべての顔を知る人たちと出会うことになるなんて。
