数日後―――
「おはよう星那」
「おはよう」
教室に入ると、いつものように小さく頭を下げる。
私は教室の窓際にある自分の席へ向かった。
高円寺では、たくさんの人に見られていた。
けれど学校では、私はただの高校生。
特別目立つわけでもない。クラスの中心にいるわけでもない。
眼鏡をかけて、髪を適当にまとめて、できるだけ目立たないようにしてる。
いわゆる、地味な子。
それでいい。
学校くらいは、何者でもない自分でいたかった。
「ねえ、これ見て!」
朝の教室で、クラスメイトがスマホを掲げていた。
「この前の高円寺阿波踊りの動画!」
「うわ、すごい人!」
「桃葉連っていうんだって」
クラスメイトがスマートフォンを囲んでいる。
画面の中では、桃色の着物を着た踊り子たちが、太鼓や鉦の音に合わせて舞っていた。
「この子、めちゃくちゃ可愛くない?」
「わかる!踊りもうまいし」
「誰だろう?」
「あ!人気女優の星ちゃんじゃない?」
「え、ほんとだ!」
「どうりで見覚えあるなと思った」
私は少し離れた席から、その会話を聞いていた。
もちろん、誰にも気づかれていない。
芸能界にいるときの私は、ここにはいない。
「星ちゃんって阿波踊りも出来るんだ!」
「しかもこの男の子とペアじゃん」
「え、まって」
「この男の子…」
「夏希くんじゃない?」
教室の視線が、一斉に夏希へ向いた。
「え?」
「夏希くん、人気女優の星ちゃんと知り合いなの!?」
「…まあ」
夏希が少し困ったように答える。
「幼なじみだから」
「ええ!?」
教室が一気に騒がしくなった。
「じゃあ、この動画の子と一緒に踊ってたの!?」
「うん」
「すご…」
私は黙ってその様子を眺めながら、小さく笑った。
すると、隣から夏希が小さな声で話しかけてきた。
「…楽しそうだな」
「うん。みんな星ちゃんのこと好きなんだね」
「自分のことなのに?」
「私は今、ただの星那だから」
そう言って笑うと、夏希も呆れたように笑った。
「まあ、そういうことにしとくか」
