踊り子は、芸能界で愛されすぎています。




東京都杉並区 高円寺

時刻  およそ 22時



さっきまであんなに大きかった太鼓の音も、鉦の音も、少しずつ遠ざかっていく。


「…終わっちゃったね」

隣で夏希(なつき)が呟いた。

「うん」

私も笑って答えた。




だけど――胸の奥が妙に静かだった。

楽しかったはずなのに。
あんなに楽しみにしていたはずなのに。

演舞が終わった瞬間、胸の中にぽっかり穴が空いたような気がした。



星那(せな)?」

「…なに、夏くん?」

「いや。なんか、ぼーっとしてたから。」

「…終わっちゃったなと思って」

「今年も?」

「うん、今年も。」



私はまだ、鳴り止まない歓声の向こうを見つめた。

何度も踊ってきた高円寺の夏。毎年終わる度に同じ気持ちになる。


もっと踊っていたい。


そんなわがままを、私は毎年、胸の奥にしまっていた。





「星那、着替えてくる?」

「うん。夏くんもでしょ?」

「そう。じゃあ、着替え終わったらここ集合な」

「わかった」

「先に帰るなよ」

「夏くんこそ」

私たちはそれぞれ更衣室へ向かった。





――しばらくして。

「お待たせ。」

私が戻ると私服姿の夏希が壁際で待っていた。

「遅い」

「夏くんが早いんだよ」

「そう?」

「そう」

そんなくだらないやり取りをしながら、二人で帰路に着いた。

「そういえばさ」

「なに?」

「課題、終わった?」

「……」

「その顔、終わってないな」

「夏くんは?」

「俺も」

「じゃあ、明日やろうか」

「明日も休みだしな」

「よし、決まり」



2人で笑った。

いつもの会話。

いつもの帰り道。

それなのに、胸の奥の穴だけは、まだ消えなかった。