隣の席の佐竹くんには…

♦︎佐竹side♦︎


顧問から呼び出され職員室から教室へ向かっている時のこと。

「おい、佐竹」

自動販売機の前を通り過ぎようとしたところで男子三人組の一人から声をかけられた。

呼び止めてきたのは同じ剣道部の水谷で、彼の声色からは不機嫌なことが伝わってくる。

その原因を何となく察していたけれど、あえて返答する。

「なに?」

「なに?じゃねーよ。お前、いつまで剣道部にいるつもりだよ?」


…やっぱり。

会うたびに聞かれるお決まりの質問。

「辞める気はないよ」

これもお決まりの返答。

「気づかねーのかよ。迷惑だってことが。練習もさせてもらえてねーヤツがいたって邪魔なだけなんだって。やる気ないなら早く辞めろよ」

「……」

数分前、顧問の竹田先生にも言われた。

『お前、いい加減その前髪をどうにかしろ。本気で剣道に専念したいならできるはずだろ。正直に言うけど、今のお前はうちの部にいらない』


…このままじゃいけないこと。


分かってる…
変わらないといけないことくらい。


だから、言い返せない。

耐えるように唇をキュッと噛み締めた。


無言のまま俯くと、はぁ…と呆れたように水谷はため息を吐く。


「なんでそんな剣道にこだわんだよ。理由でもあんのかよ?」

水谷のその質問に隣にいた男子が言う。

「そりゃー強くなるためだよな。お前、いつもライトに絡まれてるもんな」

その言葉に思わず反射的に顔を上げる。

「強くなって少しくらい逆らえるようになりたいもんな」
「かわいそうなヤツ」

あはは!と声を揃えて笑いはじめる水谷達。


…こういう茶化しは慣れている。

いつものように言わせておけばいい。

だけど…


「誤解してるようだけど、ライトは大事な友達だから」

ライトが誤解されてるのは、黙っていられない。

水谷達の方に顔を真っ直ぐに向ける。

「え、そう言えって脅されてんの?」

「大事とか言っちゃって、無理ありすぎだろ!」

ドッ!と、さらにその場に笑いが起こった。

「…信じられなくても、ライトのことは悪く言うな」

前髪から微かに覗いた目をギロリと男子たちに向けると、その場を去った。

「なんだあいつ」
「精一杯の強がりなんじゃん?」
「ダッサ」

そんな声を背中で受ける。


…いつものことだ。

いつものように、感情に蓋をすればいい。

何もなかったかのように目を閉じた。